第77話 宴でヴァーノン男爵が伯爵に昇爵することが決まりました

すみません

更新間違えました。

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宴会は広場で開かれた。

夜になったが、松明が広場の至る所に配置されて昼間のように明るくなっていた。

そこに多くの者が集まって来たのだ。千人はいるだろうか?


私達の席は族長のすぐ傍の席が与えられた。

私はクリフの横にちょこんと座っていた。その横がポーラだ。


「者ども、今日は嬉しいことに帝都からクリフォード殿下が、今は亡き大帝カールとの約束を果たすためにこの地に来てくれた」

「「ウォーー」」

立ち上がって話し出した族長の声に歓声が沸く。

歓声に釣られる形でクリフも立ち上がって皆に手を振った。


「何と殿下は遅れたわびも兼ねて、儂に土産を持って来て頂いたそうだ」

「「「ウォーーーーーー」」」

カルヴィンさんの声に巨大な歓声が広場中に木霊する。

でも、クリフってそんな大それたものを何か持って来ていたっけ? 私には思い至らないんだけれど。


「勇敢なヴァーノン族の皆さん。私は亡き祖父に代わって遅ればせながらこの地に来れた事を嬉しく思います。歓迎してくれてありがとう」

「「「ウォーーーーー」」」

ヴァーノン族はとてもノリが良い。


「我が帝国の皇帝だった祖父カールはその戦う事百度、その間、傷付けられたことはただ一度、あなた方族長カルヴィン卿だけだ」

「「ウォーーーーー」」

歓声がまた沸く。


「祖父はその傷が原因で亡くなり、カルヴィン卿はその時の傷が元で足を悪くされたと聞いています」

さすがにこの時は歓声はなかった。


「その事で両者の間にわだかまりが残り、今に至っているのは皆さんも知っている通りだ。帝国ではヴァーノン族を軽んじ、ヴァーノン族はそれに反発する。そんな状態が今まで続いていた」

シーンと場が静まり返った。


「しかし、それは祖父の遺志とは違う。祖父は亡くなるまで、カルヴィン卿と戦えたことを誇りに思っていたそうです」

「ウォー」

軽い歓声が沸いた。


「今回、私は父の全権大使としてこの地に赴きました。この呪われたような現状を打破するために」

そう言うとクリフは懐から紙を取り出した。


何か重々しい封書だ。


「いや、クリフォード殿。それは」

困惑した顔のカルヴィンさんがいる。

どうしたんだろう?


「これ以上の地位はさすがに武勲を上げてもらわねば無理です」

カルヴィンさんの困惑を無視してクリフは封を解いた。

そして、封書を開いた。


「カルヴィン・ヴァーノン。汝を先の戦いにて、生涯無敵と言われたわが父カールに一太刀浴びせたことを賞し、ここに伯爵位を与える。帝国皇帝リチャード・モンターギュ」


「「「「ウォーーーーーーーーー」」」」

大歓声が上がった。

「えっ、伯爵位って凄いの」

無知な私は横のポーラに聞いた。


「それはそうよ。何しろ帝国には100人も伯爵はいないのよ。我が家は今まで男爵位だったのだから」

「そうだよね。考えたら学園でも伯爵位って言えばAクラスだもんね」

ポーラがAクラスに移ったらどうしよう! 私は見当違いな事を心配していた。



でも、そのクリフの言葉を受けたものの、そこには戸惑っているカルヴィンさんがいた。


「ヴァーノン卿、受け取って欲しいのだが」

クリフが苦笑いをして言うが。


「しかし、儂は何も武勲を立てたわけではないぞ」

首を振ってカルヴィンさんが言うんだけど。


「祖父としては元々あなたを伯爵としてこの帝国に迎えるつもりだったのです。ただ、祖父があのまま亡くなったので、一部貴族が反発して遅れていたのです」

「しかし、儂は前皇帝に手傷を負わせて亡くならせたのだぞ」

「祖父はそのあなたの戦の強さを当てにしたのですよ。何しろ祖父に手傷を負わせたのは後にも先にもあなただけですから」

クリフはそう言うと、カルヴィンさんにその用紙を差し出したのだ。


「しかし、あの戦では、後方から奇襲をかけて挟み撃ちにしたそこのエイブの祖父が一番功があったのだろう。そのデリックが男爵位でいるのに儂だけが伯爵位になるのは」

「バレー卿にも同じ伯爵位が授与されるのが決まっています。まあ、伯爵位を授与すると言っても爵位だけが増えるだけですが」

クリフが笑って言った。


「いや、それでも名誉は名誉だ。これでヴァーノン族全体の地位が上がるだろう」

カルヴィンさんは笑って言ってくれた。


「いや、族長、それを受けるかどうかは皆で相談したうえで」

後ろからサイラスが叫んでいる。


「サイラス、黙れ! 今は客人の前だ」

そうカルヴィンさんは叱責すると一同を見渡した。


そして大きく頷くといきなりクリフの前に跪いたのだ。


「「えっ」」

ヴァーノン族の人たちは驚いて族長を見ていた。

「うそ、おじいちゃんが跪くなんて」

私の横でポーラが唖然と見ていた。


「その爵位、しかと承ります」

そう言って手を伸ばすや、クリフから詔を受け取ったのだ。


「「「「「ウォーーーーーーーーー」」」」」

大歓声が沸き起こった。


ここに帝国のヴァーノン伯爵が誕生したのだった。


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