第76話 草原の民は意見が色々あるみたいで前途多難な事が判りました

ヴァーノン族は牧畜の民だ。

彼らは広大な草原地帯を放牧しながら移動している。だから基本は移動の生活なのだ。


ただそれでは、統治上まずいこともあるので、各地にあるオアシスには街もあった。


このオアシス・ヴァーノンはその最たるものでそれでも人口は数千に過ぎない。

ヴァーノン族の総人口は10万人。それがこの広大なヴァーノンの地に点在して放牧しているのだ。


そして、彼らの多くは騎乗して優秀な騎士として、元はキンロスの強力な戦力だった。それが今は帝国に属している。帝国ではエイブのバレー族と並ぶ強力な勢力のはずだ。


オアシスには建物もあったが、私達が案内されたのは大きなゲルだった。

客用の巨大なゲルがあって、私のはその中に小さなゲルをポーラが建ててくれた。私のは昔の世界で言う三角テントだ。そこに干し草を積んで簡易ベッドにしてくれた。

特別仕様らしい。


クリフ等は地べたにマットレスを敷いてその上に寝袋を広げていた。


案内したものが恐縮して、

「ベッドをお持ちしましょうか?」

と聞いていたが、


「いや、良い。草原の民と同じ生活がしたい」

とクリフが言うのを聞いて驚いていた。


エイブは慣れているのか動じていないが、私とボビー等はキョロキョロと物珍しそうにあたりを見回していた。


「このあたりを案内するわ」

ポーラが言ってくれたので、私達はポーラについていくことにした。

外に出ると、大きなゲルがたくさんあった。それに付随して小さなゲルも一杯ある。


「皆、家族ごとにゲルを持っているのよ」

ポーラが話してくれた。


「あれが、お兄ちゃんのゲルで、あれがサイラス叔父さんの、あの一番でかいのがおじいちゃんのゲルなの」

ポーラが指さして一つずつ説明してくれる。


「ねえねえ、家畜はどこにいるの?」

私が聞くと、


「家畜はここにはいないわよ。郊外の牧場にいるわ」

「そうなんだ」

私は少しがっかりした。


「家畜に興味あるの?」

「だって、ヤギとか牛とか羊とかいるんでしょ。私、もふもふしたい」

「もふもふ?」

不思議そうに聞いてきたので、


「うーん、抱っこすることかな」

私が説明すると、


「えっ、家畜を抱きたいの? でも、貴族のペットと違って、臭ったりするけど大丈夫なの?」

少し、気にして、ポーラが言うが、


「まあ、それは仕方がないんじゃ無いかな」

私は答えた。そう、前は病弱だった関係で、動物に触ったことがほとんど無かったので、この機会に是非とも触ってみたいのだ。


「今日は時間が無いから無理だけど、また、明日にでも、案内するわ」

ポーラが言う割に心配そうに私を見た。

大丈夫だから、そんなに心配しなくても。私も臭うことくらい知っているわよ。

なんか信用がないみたいだ。




「族長、今頃、帝国を信用されるのですか? 今まであんなにこけにされて」

私達がカルヴィンさんのゲルに来ると、大きな声が聞こえた。


「まあ、サイラス、そう言うな。わざわざ、皇子殿下が、来てくれたのだ。むげにも出来まい」

「しかし、帝国はキンロスの血を引く第二皇子殿下が継がれるのでしょう」

「それならば、別に何も慌てることもなかろうて」

平然と、カルヴィンさんは答えるが、


「そ、それはそうですが、帝国は今回、ポーラに対する襲撃を策謀したんでしょう。族長も許せないと先程まで怒っておられたではないですか!」

「しかし、助けてくれたのが帝国の皇子だ。まさか、帝国の皇子を帝国が襲わせはしまい。のう、クリフォード殿下」

私達を見つけて、カルヴィンさんがこちらに振ってきた。


「私の知る限り、私を襲う必要はないと思います。まあ、弟が私を襲わせたのなら話しは違ってきますが」

クリフは平然と答えるが、

「ふん、そんなものは判るものか。自分で襲わせて、恩に着せるということも出来るのだぞ」

「サイラス、いい加減にせんか、そんなこと言い出したら、きりがないぞ。儂を帝国から引き離す為に、キンロスが帝国を語って襲わせたかもしれないんだからな」


「そのようなことがあり得んでしょう!」

何故か更に声のトーンを高くしてサイラスは言うんだけど、

「そんなのは判ったことか。少なくとも、帝国がやらせたと言うよりはよほど信憑性があるぞ」

「私はそうは思いません」

サイラスはそう断言すると私達を見て

「お客様がいらっしゃったようなので、これにて失礼します」

サイラスは不満のあまりどしどしと足音を立てるように出て行った。


「これは見苦しいものをお目にかけましたな」

カルヴィンさんが笑って言ってくれる。でも、目は笑っていないように思えた。


「サイラス殿が不満に思われるのも当然でしょう。せっかく、20年前に我が方に降って頂いたのに、我らとして十二分に報いたとは到底言えないですから」

クリフが首を降って言った。


「いやいや、我らは負けて帝国に属したのです。このような待遇になるのも致し方ありますまい。それにこうしてやっと帝国の皇族の方がお越しいただけたのです」

「本当に遅くなって申し訳ありません。何しろ色々と反対勢力もあって父も自由にはなかなか出来なかったのです」

クリフが謝った。

「ポーラ嬢も、いろいろ学園ではあったと聞く。遊牧の民に対する差別もなかなかのものだろう。エイブ」

クリフが後ろのエイブに言うが、


「まあ、俺は全く気になりませんが」

「私も気になりませんよ。クリフ様」

エイブに続いてポーラも言ってくれた。


「そう言ってもらえると嬉しいが、いつまでもこういった状態が続くのは良くない。今回我々はカルヴィン卿に色々手土産を持ってきています。宴会の時に披露しますが、お気に召して頂けたら嬉しいんですが」

「左様ですか。そこまで言われるのなら、さぞや凄いものなのでしょうな。これは楽しみだ」

カルヴィンさんはそう言うと笑てくれたが、果たして宴会はうまくいくんだろうか?


なんか遊びに来ただけではなかったようで、まだまだ色々あるみたいで、私はこの先が思いやられたのだ。




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