第78話 宴会にて族長の足にヒールをかけました

カルヴィンさんがクリフから昇爵の詔を受け取ったことでまた、盛大な歓声と拍手と絶叫が響き渡った。


カルヴィンさんはその後、立ち上がると皆にその詔を掲げていた。


再度歓声が響き渡る。


「な、なんという事だ! 今まであんな扱いをされてたのに、そのまま残ると言うのか!」

サイラスがぶつぶつ文句を言うのが聞こえた。


でも、他の皆は無視している。まあ、クリフのいう事が認められたという事なんだろう。とりあえずクリフの為に私は喜ぶことにした。


「クリフォード殿下、有難う」

カルヴィンさんは再度クリフに頭を下げた。


「いえいえ、それは遅れていた我々が悪いのですよ」

クリフはそう言うと、座った。


「さて、今日はその他にも紹介したいものがいる」

カルヴィンさんは皆を見渡した。


「何と今日はバレー族からその族長の孫のエイブが来てくれたのだ。彼は我が孫娘のポーラの友人でもある」

「「「ウォーーーー」」」

また歓声が上がる。


「あのバレー族の戦士か」

「いかにも戦えそうだな」

「族長、その男に挑戦させてもらえませんか」

一人の青年が立ち上がった。年は私達と同じくらいだ。見た目がサイラスと似ていると思ったらその息子だとポーラが後で教えてくれた。


「えっ、イーモン!」

ポーラが声を上げた。

「知っているの?」

「大叔父の孫よ」

「大叔父の孫?」

私は良く判らなかった。

後で詳しく聞いたら、ポーラのおじいさんの族長の今は亡き弟の息子がサイラスで、その息子がイーモンだとか。まあ、ひとくくりに親せきという事?


「どうする、エイブ?」

「問題ないですよ」

両手をボキボキならして、エイブが言う。


「では良かろう」

族長の声で直ちに真ん中の物がどけられてあけられて、即席の会場が作られる。そして、二人にはつぶした剣が与えられた。


「じゃあ、行ってくる」

エイブがポーラに言うと

「頑張って」

ポーラがエイブを応援した。


「くっそう、ポーラを味方にしやがって。絶対に地面に這いつくばらしてやるからな」

イーモンが悔しがって剣の切っ先をエイブに向けた。


「ふんっ、同じことをお前に告げてやるぜ」

エイブは軽く剣を握った。


「行くぞ」

イーモンがエイブに斬りかかった。


エイブが軽く受ける。


「くっそう!」

イーモンがシャカリキになって何回も斬りかかるが、それを全てエイブは受けた。


「そろそろこちらから行くぜ」

そう言うと、エイブは剣を構え直したのだ。そしして、次の瞬間、イーモンに斬りかかった。


イーモンはそれを受けようとしたが、受けきれずに剣を弾き飛ばされていた。


「それまで」

剣をイーモンの喉元につきつけたエイブにカルヴィンさんが宣言した。


「くっそう!」

イーモンは地面を叩いて悔しがった。


「エドの孫もなかなかやりおるな」

「いえ、それほどでも」

エイブは謙遜したが、


「イーモン、まだまだ鍛錬が足りんぞ」

族長の言葉にイーモンは顔を背けて去って行った。



次に紹介されたボビーはまた別の若者の挑戦を受けて戦ったが、互角だ。


「それまで。これは引き分けだな」

カルヴィンさんに言われて、二人は握手して別れる。



「ちょっと、私剣なんて持ったことも無いわよ」

私はとても心配になってきた。


「大丈夫だって。あなたに剣を持てなんておじいちゃんは言わないわよ」

「でも、挑戦してきたら」

「その時は俺が相手になるよ」

クリフが言ってくれるんだけど、


「えっ、じゃあ俺が」

「ちょっとお兄ちゃん。冗談でも止めて」

ポーラの兄が手を上げようとするがポーラが止めていた。


「次は癒し魔術の使い手で、わが娘の恩人のアオイだ。彼女は他の高位貴族の令嬢の治療よりも我が娘の治療を優先してくれた。本当に感謝の言葉もない。改めてここに皆に紹介したい」

「ウォーーーーー」

皆歓声を上げて私を迎えてくれた。


「アオイです。お世話になります」

私はみんなに手を振って頭を下げた。


そこに、ポーラの兄のダニーが立ち上がってこちらに来たんだけど。


「ちょっと、お兄ちゃん」

ポーラが注意しようとするが、


「いや、アオイさん。本当に妹の命を救ってくれてありがとう」

私はダニーに手を取られて押しいただかんばかりに感謝された。

「いや、お兄さん。ポーラは私の友人ですから当然のことをしたまでです」

「いや、アオイさん。あなたは公爵令嬢の治療よりも妹の治療を優先してくれたと聞く。ポーラは俺の唯一人の血を分けた妹なんだ。俺は絶対にこの恩は忘れない。もしなんか困ったことがあったらいつでも言ってくれ。俺は全力で君の力になるから」

「そうだな。本当に何か困ったことがあれば我が一族を頼ってほしい。我が一族は必ず、あなたを助けるから」

族長までが言ってくれた。

「本当ですか。そのときはよろしくお願いします」

これで、もし王宮を追放されても行くところが出来た。私はホッとした。


「あの、その時のお礼の前払いって言うわけではありませんけれど、カルヴィンさんの足にヒールをかけさせて頂いてもいいですか」

私は軽い気持ちで言ったのだ。


「ヒールとな。しかし、時間が経っているし、今更ヒールしてもらってもどうなるものではなかろう」

カルヴィンさんが首を振ってくれた。


「カルヴィン伯、アオイのヒールは我らが来るのが遅れた詫も兼ねているんだ。これは祖母の皇太后の願いでもある」

クリフが凄い事を言ってくれるんだけど、そう言えば皇太后様からヴァーノン族の族長の足を出来たら治してやってほしいと言われていたんだった。

でも、そんなのうまくいくんだろうか?

時間経っていたら難しいかも。

改めてみんなが見ている所でやって出来なかったらどうしよう?


私は徐々に不安になって来た。


「まあ、娘を治して頂いたアオイ殿の腕を信じないわけではないが、このようなことが出来るのは聖女様くらいしかいないのではないか」

戸惑ってカルヴィンさんが言ってくれた。


「ふん、小娘。大層なことを言って辞退するなら今のうちだぞ」

サイラスが呟いてくれるんだけど、それにはムッとした


「いや、アオイは俺の足を治してくれたんだから絶対にうまくいくって」

ボビーが勇気づけてくれた。

「そうよ。アオイ。あなたなら出来るわよ」

ポーラも言ってくれるんだけど。


でも、うまくいかなかったらどうするのよ!


私はとても不安になったが、みんな期待してこちらを見てくれていた。


クリフは私を見て頷いていくれたんだけど。


もう、やるしかないか!


「ヒール」

私は叫んだのだった。

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ここまで読んで頂いてありがとうございます。

続きは明日です。


私の前作で好評頂いた『転生したら地味ダサ令嬢でしたが王子様に助けられて恋してしまいました。』

https://kakuyomu.jp/works/16817330667785316908

まだの方は是非ともお読み下さい。


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