第73話 辛い騎馬の旅に慣れてきた頃に山賊に遭遇しました

馬の旅はけっこう大変だった。


何しろずっと馬の上だ。


この前の旅はクリフが私のことを考えててくれていたのが良く分かった。

私としてはたくさん移動したと思ったのだが、距離的には大したことはなかったのだ。

今回は3日間駈けるとは言っても3日とも目一杯駆ける。前回は適当に休憩しながらのんびりとした馬の旅だったのだ。



今回は1時間おきの休憩で、私はもう死んでいた。


「アオイ、大丈夫?」

休憩時間にポーラが聞いてくるが


「駄目、もう死んでいる」

私はぐてーと地面の上に伸びていた。


「やっぱ、お嬢様には難しかったのね。ごめん。馬車にすれば良かった」

「いやいや、お嬢様とかいうのじゃなくて、前は私病弱だったから、殆ど寝ていたのよ。最近は少し丈夫になって大分ましになったんだけど……」

「ええええ! じゃあ、もっと大変じゃない。本当にごめん。そんな子にこんな無理させて」

「うーん、でも、この前はクリフに乗せてもらってミルコープ辺境伯領から帝都まで移動できたから、いけると思ったんだけど……」

私は這々の体で答えた。


「あの時は半分以上を馬車の旅だったろう」

クリフが指摘してくれた。


「そうだった。王家の素晴らしい馬車の旅と馬の旅じゃ違うんだ」

私は死んでいた。


クリフがケン等と打ち合わせに行って


「王家の馬車に乗せてもらえるってアオイって何者なんだよ」

エイブが聞いてきたけれど、


「おそらく、聖女様じゃない! 私の傷も一瞬で治してくれたし」

ポーラが答えてくれるんだけど、


「それは違うと思うよ。アリストンからは聖女じゃないって追い出されたから」

「えっ、そうなの? あれだけ癒やし魔術を使えるのに?」

ポーラが驚いて私を見た。


「そうだ。あれだけ凄いヒールを使えるやつって他にいないぞ」

「そう、俺の足も一瞬で治してくれたし、普通は時間が経つと癒やし魔術師でも治せないんだ」

「ふうん、そうなんだ」

私は皆に褒められて嬉しかった。

今までは寝たきりで皆に迷惑しかかけたことなかったし……


「そんなに凄いヒール持っているんだったら、今も自分に使えば言いんじゃないか」

ボビーが言ってくれた。


「えっ、ヒールって疲労回復にも使えるの?」

私は思わず、聞いていた。


「それは判らないけど」

「普通はそんなもったいないことはしないと思うけれど、アオイの場合は力は有り余っているんだろ」

「やってみても良いんじゃない」

「そうね」

皆に言われて試しに私はやってみた。


「ヒール」

自分にかけるって変な感じだったけれど、自分が光り輝いた。


「あれ、本当だ。元気になった」

私は驚いて言った。


「ありがとう、ボビー、あなたのおかげよ」

私は抱きつかんばかりにボビーに言った。

「えっ、いや、それほどでも」

ボビーが真っ赤になって照れてくれた。



「何しているんだ」

慌ててクリフが飛んできた。


その話をすると

「ああ、やっぱり使えたのか」

クリフはなんか知っていたように言ってくれるんだど。


「知っていたら言ってよ」

私がムッとして言うと


「いや、確信があったわけではないんだ。けれど、今は体力ないアオイにこれを機にできるだけ体力を付けさしたほうが、良いかなと思ってたんだがな」

クリフが苦笑いをして言うと、


「そうなの? でも、苦しくないほうが良いのに!」

「ヒールは余りやると良くないし、筋肉は痛めた方が強くなるぞ」

クリフは言ってくれた。


それはそうかも知れないけれど、私の体力考えたら、いきなりは無理じゃない。

それに少しは楽できたほうが良いと思うし。

私がムッとして膨れていると


「まあ、使いすぎに気をつければ良いんじゃないか。1日に一回くらいにしておけよ」

クリフが言ってくれるんだけど……



ヒールで回復した私の体力だけれど、次の1時間であっさりと使い果たしてしまったのだ。


やっぱり根本的に体力が足りないみたいだ。少しは走り込みでもしようと私は決意した。


結局、宿屋に付くと私はご飯を食べる間もなくバタンキューで寝てしまった。


でも、これも3日続けると少しはましになってきたのだ。


大分クリフの前で長時間、馬に乗るのも慣れた。

でも、ホッとした時に厄災は襲ってくるのだ。



次の山を超えたらやっとヴァーノン族の領地に入るという谷間で、前から走ってくる騎馬の群れを見たのだ。

50騎くらいいる。


「あれ、ポーラ。一族の人が迎えに来てくれたの?」

私は前を走っているポーラに聞いた。


「違うわ。ヴァーノン族じゃない」

ポーラが緊張した面持ちで答えた。


前から走ってきた奴らがいきなり抜剣したのだ。


「山賊だ」

クリフが叫ぶと同時に抜剣していた。

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