第72話 大王視点 やっと帝国に揺さぶりをかける時が来たと決断しました

俺はキンロス帝国の皇帝ピートル、もっともモンターギュ帝国などとほざく辺境帝国に負けてしまってからはその名を呼べなくなったが……


20年前、その頃わが王国は最盛期を迎えていた。


ヴァーノン族ら、辺境の民族も従えて、一路モンターギュ帝国の帝都を目指したのだ。俺はその時は40歳で、今よりも考えなしだったが、勢いと体力はあった。

我ら総数は20万人、対する帝国は30万人だったが、戦闘に継ぐ戦闘で練度の上がっている我軍は勝つ気満々だったのだ。


我軍は精強な辺境の者達を先頭に中央突破を図ったのだ。特にヴァーノン族の族長のカルヴィンの活躍は目覚ましく、一時期は帝国の本陣を突き崩したのだ。

俺は勝ったと思った。


その時だ。突如後方からバレー族を中心とした帝国の大軍が現れたのだ。

我軍は挟み撃ちにあって散々な目に遭った。かろうじて包囲網を破ったが、故国に帰り着いたのは5万人にも満たなかった。大敗だった。


このままでは逆に攻め込まれたら到底防ぎきれない。


その時、元々この戦いに反対だった宰相のスレンコフがなんとか講和を結び、我が国はかろうじて生きながらえたのだ。


ただ、その和平案は、我軍にとても不利なものだった。多くの辺境の民と領地が帝国に編入され、我が娘を帝国の皇太子の側妃として差し出さねばならなかったのだ。

この大王が娘を人質に差し出したのだ。


「陛下。今は忍耐の時です」

宰相に言われて俺はなんとか耐えたのだ。


帝国の皇帝カールがこの戦いの傷が元で戦死したと聞いたのは戦いの1年後だった。

帝国の皇帝がこんなに早く死ぬとわかっていればもっと抵抗したのだ。俺は地団駄踏んで悔しがった。

帝国に諮られたと知ったが、後の祭りだった。


「今は雌伏の時なのです」

スレンコフは何度もそう言ったが、俺には、中々耐え難い屈辱だった。


皇帝カールが死んで帝国の皇帝に立ったのはリチャードとかいう青二才だった。

しかし側近の大半はカールの時からの側近で、帝国は油断ならない存在だった。


そして、10年経った。帝国の老臣も多くがこの世を去った。


「そろそろ帝国を揺さぶってみますか」

スレンコフが言い出したのだ。

なんでも、アリストンの聖女を事故に見せて殺せばよいと言い出した。

そうすれば、帝国の第一王子は次の聖女の王配になって、帝国は俺の孫が継ぐことになるというのだ。

「そうすれば大王の子孫がこの大陸の大半を制せられます」

スレンコフが言うのだが、なんとも迂遠なことだと思わないでもなかったが、とりあえずやらせてみた。


聖女は40とまだ若かったが、帝国ベッタリの聖女だったそうだ。


可哀想なその聖女が死ぬとアリストンは慌てて次の聖女を召喚してくれた。


そして、帝国の第一王子が王配に着くことに決まり、帝国内に激震が走った。


反発する貴族も多かったが、帝国には皇子は第一王子の次は俺の孫の第二王子しかいないのだ。

皇帝の若造が苦虫を噛み潰したような顔をしたとかしなかったとか。


まあ、孫が皇帝になった暁には我が王国は二カ国を支配したと同じ扱いになるのだ。

この大陸の過半を制したことになる。他は弱小国家ばかりだ。我が国に文句を言える国はなくなろう。


なんとも迂遠なことだが、それもよかろうと思っていた。


そんな時にスレンコフが死んだのだ。

宰相の地位は若い息子のマクシムが継いだ。


そして、あろう事か、今度は召喚した聖女が逃げ出して処分せざるを得なくなったという事態が発生した。聖女は前聖女を我々が処分したのを知ったというのだ。

アリストン王国にいる連中は何をしているのだ。俺はアリストンに派遣しているシリルを叱責した。



次の王配は我が国から出さざるを得まい。


とんだことになったものだ。


しかし、これで帝国には我が孫と王配ではなくなった皇子の二人が次の皇帝位を争う構図が出来上がったのだ。


これを機に帝国に揺さぶりをかけて、あわよくば併合することも可能ではないかと俺は考えたのだ。


マクシムら若手の連中もとても乗り気になっていた。


年寄で慎重派のスレンコフが死んで、俺はその息子の代と一緒に積極的な拡大策に乗り出したのだ。


それは俺の希望でもあった。


第一皇子と第二皇子の派閥争いが激しくなったと報告は受けた。そう、混乱を起こすことは成功したのだ。


聖女の王配は我が孫をあてがって大陸で広く信じられている女神教を完全に支配下に置くことは成功した。


次に俺は、元々我が国の強力な戦力であったヴァーノン族に手を伸ばしたのだ。


ヴァーノン族は帝国に属していたが、その待遇に大いに不満を持っていたのだ。


帝国の奴らも馬鹿だ。ヴァーノン族の族長に男爵位しか与えていなかったのだ。


俺は我が王国に属すれば子爵位を与えると餌を出したのだ。


これで、ヴァーノンが帝国に反旗を翻して我が国についてくれれば、我が王国の版図は最盛期に近づくことになる。


俺は直ちに作戦の実行を指示したのだった。


その地に帝国の皇子が向かつているなど知りもしなかったのだ。

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