第70話 落ち込んでいるクリフを慰めました
その日はその後も順調に進んだ。
私が散々好きなことを言った皇女殿下の逆襲もなかった。
珍しい。どうしたんだろう?
「殿下に何か酷いことを言われませんでしたか?」
そして、迎えに来たエイミーはとても心配していた。
「大丈夫よ。エイミー。それよりも私の方が皇女殿下に酷いことを言ったんだけど……」
「たまには殿下にはいい薬になったんじゃないですか?」
エイミーがとんでもないことを言ってくれるんだけど。
まあ、私は自分では当然の反論をしただけだと思うけれど、王女殿下に話すには言い過ぎだったと思う。
「なわけ無いじゃない。絶対にまた何か言われるわ。それより、この近衛騎士の方々はどうされたの?」
私の送り迎えの馬車の周りに騎乗した近衛騎士が10人もいるんだけど。
「実は、アオイ様に捕まえて頂いたアリストンの破落戸共が地下牢で全員死んでいるのが確認されまして」
なんかエイミーがとんでもないことを言い出したんだけど。
「えっ、クリフが怒りの余り殺したの?」
私は慌てて聞いた。
「アオイ様。殿下はそのような考え無しのことはなさいません」
エイミーが言うが、いやいや、実際に現場では殺しそうだったし……
でも、エイミーの言葉によるとクリフは捕まえた神官たちに証人にして、アリストンの聖女殺しの黒幕を暴き立てるつもりだったらしい。それが尋問する前に、死なれたので、永遠にわからなくなってしまったのだ。
それでクリフも頭を抱えているらしい。
「でも、宮殿の地下牢は警戒も厳重じゃないの」
私が疑問に思って聞いた。
「それはそうなのですが、宮殿の医師の一人が行方不明になっており、関与が疑われているのです。全容が見えていないので、まだ、アリストンの手のものが宮殿に潜んでいる可能性もリますので、アオイ様の警護も万全を期すようにとのことで、近衛の方が増員になった次第でして」
エイミーが説明してくれた。
私はそのまま、宮殿に戻った。
帰った宮殿の中は警備する近衛騎士の数が倍くらいに増えていてとても物々しかった。
私はそのまま自分の部屋に向かったのだ。
宮殿全体がとても重苦しい雰囲気に包まれていた。
今日は誰かと一緒に食べるとかいう事は遠慮してほしいという要請が近衛騎士団長から出ていて、私は一人で食事を取ることにしたのだ。
その後は、しばらく休んでいた間のノートをポーラから借りていたので、そのノートを写して判らないことをエイミーに聞いて過ごした。
数学や理科はエイミーも不得意で、いつもなら、クリフに聞くのに、聞けなくて、明日友達か先生に聞こうと思ったのだ。
もっともポーラもエイブもボビーも脳筋だから、おそらく私よりも出来ないことは予想できたので、
魔術実技で同じクラスになったアレンにでも聞こうと思ったのだ。
結局やることも無くなって、私はさっさと寝ることにしたのだ。
夜中にガチャリと隣の部屋の扉が開く音がした。
おそらく、クリフだ。
私はすぐに行こうとして、少し躊躇した。
また、「アオイ、邪魔するな!」って怒られたらどうしようと思ったのだ。
そうなったらもう立ち直れない。
でも、考え無しに、聖女様が殺されたということをクリフに言ってしまったのは私だ。
その点もちゃんと謝ろうと扉の前に立ったのだ。
「怒られませんように!」
私はそう祈ると、
トントン
とノックしたのだ。
「ん、開いているぞ」
クリフ声はとても不機嫌そうだった。私はノックしたことをとても後悔した。
でも、もうノックしてしまったのだ。いつまでも固まったままではいけない。
私はゆっくりと扉を開けたのだ。
「アオイ、どうしたんだ? そんなところから顔を出して」
クリフは私を驚いた顔で見つめた。
「えっ、ここ私の部屋だから」
「何だって! アオイの部屋が隣になったのか?」
私の言葉にクリフが驚いていた。
「ごめん、クリフは嫌だったよね。ここは未来のクリフのお嫁さんの場所だし、私は遠慮したんだけど、皇太后様からの命令だってエイミーから言われて、それで、仕方なく……」
やっぱりクリフは知らなかったんだ。嫌だよね。私が隣では。そう思うと私の声は途中からとても小さくなった。
「いや、すまん。どうやって証言させるか、奴らのことで頭が一杯で、アオイのことも報告は受けたと思うんだが、よく聞いていなかったんだ」
なんか怖れたほど拒否はしていないみたいだ。
よし今だ。
「ごめん、クリフ」
私は今謝るしかないと私は思ったのだ。
「この前はクリフに何も考えずに、聖女様のことを話してしまって」
私がその場で頭を下げた。
「えっ、いや、それは良いよ。よく教えてくれたよ。俺もアスカが何故死んだのか疑問だったんだ。その疑問が解けてよかったよ」
クリフはそう言ってくれるが、
「でも、クリフはその聖女様を愛していたんでしょ。その聖女様が殺されたっていきなり知ったら驚くよね。それに、その犯人を殴っていたのに、私がヒールで邪魔してしまって……私本当に嫌なやつだったと思う」
「いや、アオイ、あそこで止めてくれて良かったよ。思わず証人を殺すところだった。まあ、でも、その証人を殺させてしまったけれどな。本当に馬鹿な皇子だよ」
自嘲気味にクリフは言うんだけど。
「そんなことないよ。クリフはよく我慢したと思うよ。まさか宮廷医が殺すなんて思ってもいなかったんでしょ」
私が言うが、
「本来はアリストンの手の者がどこにいるか把握していないといけないのに、出来ていなかった俺が悪いのさ。完全に俺のミスだ」
クリフが頭を抱えて自分を責めるんだけど……
私はそんなクリフを見ていられなかった。
私はトコトコとクリフに近づくとクリフの頭を抱きしめていた。
「アオイ!」
クリフは驚いて顔を上げる。
「クリフ、私はクリフがアリストンで助けてくれたから、ここに今いられるの。少なくとも私を助けてくれたのはクリフだよ。だからっていうのはおかしいかもしれないけれど、自分をそんなに責めないで」
私はクリフの瞳を見て言った。
「ふんっ、いつもは慰めるのは俺の役目なのにな」
「たまには逆に慰めないと」
私は笑って言うと今度はクリフにぐっと抱きしめられたのだ。
「えっ?」
私は驚いた。まあ、いつもは私から抱きしめて抱き返してもらっているんだけど……今日は逆だ。
私はおずおずとクリフを抱きしめ返しただった。
クリフはとても暖かかった。
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