第69話 魔術実技の先生から聖女の秘された歴史を聞きました
その日は久しぶりにポーラ達、友人と一緒に過ごした。
私がこの世界に来てから初めての友人だった。
クリフはどちらかと言うとお兄さんって言う感じだったし、エイミーは私の侍女だ。
でも、考えたら生まれて初めての友人かも知れない。
前いた日本では病弱な私は皆と一緒の行動なんて出来るわけもなくて、凛の事は私は友人だと思っていたけれど、思っていたのは私だけで、凛からしたら私は親から言われて仕方なく面倒を見てやるいやな存在以外の何物でもなかったんだろう。
だから自分が聖女になれると知った時に、邪魔な私をさっさと捨ててくれたんだ。汚物を捨てるみたいに。
そして、何故か私をまた捕まえようとしてくれたみたいだけど、何がしたいんだろう? 最も捨てられて死にそうになった私は絶対に凛のためには働かないけれど……
でも、もし私が聖女だって判ったら強制的にアリストン王国に送還されてしまうのだろうか?
そこが一抹の不安だった。
その日の6時間目は魔術実技の時間だった。
私を聖女呼ばわりしてくれたゴードン先生の授業だ。
私はとても嫌な予感がしていた。
だってあれから先生は私に会う度に「聖女様」と跪かんばかりに頭を下げてくれて敬ってくれるのだ。私は人様に敬われるような聖人君主ではないんだけど……
まずは集まる教室から変更されていた。
そこに10分前に行くと、
「これはこれは聖女様、ようこそお越しいただきました」
跪かんばかりにゴードン先生が迎えてくれたんだど。
「あのう、先生、私は聖女なんて良いものではありませんが」
私ははっきりと否定した。だって違うと言われてアリストンの宮殿から追放されたし。
「何をおっしゃいます。あのように準備の詔をせずにヒールをかけられる方など、聖女様以外にいらつしゃいません」
そう言って案内された部屋に入って私は唖然とした。
私の席だけやたらと豪華なのだ。どでかい机に立派な椅子、どう見てもそれは学園長の机みたいに見えたんだけど。
「あの、この机はおかしいのでは」
「何をおっしゃいます。聖女様はこの世界において、一番尊いお方なのです。本来ならば宮廷から陛下の机と椅子を拝借してお持ちしたかったのですが、流石にそれは憚れましたので、学園長から机と椅子を供出させました。このようなむさ苦しい物ですが、どうか、ご容赦いただきませんでしょうか? これでご不満ならば皇帝陛下と掛け合ってまいりますが」
それには私はブルブル首を振るしかなかった。まだ陛下にはお会いしたことはなかったが、そんな事は出来るわけはないではないか。
「いえ、あの、私も他の皆と同じ机で良いのですが」
かろうじてそう抗議したのだが、
「では皆さん。今日からはこの世界の聖女様の歴史からお話させていただきます」
私の話を全く無視して先生は講義を始めたのだ。
「この世界は、昔は魔物が闊歩して人はその魔物から隠れるようにひっそりと暮らしていたのです。魔物の勢いはどんどん強まり、人の住む所はどんどん狭まっておりました。
このままでは人類は絶滅すると危惧したとある騎士が、聖なる山の麓で禊をして三日三晩祈ったのです。その祈りに応えて天界の女神様は聖女様をこの地に遣わして頂けたのです。
聖女様は周りの地を浄化して人の住まいとして頂けたのです。
騎士は聖女様と結婚してそこに国を作りました。すなわちそれが我が帝国の建国物語なのです」
「えっ、ゴードン先生、それは今、初めて聞いたんですけど」
「これは秘されし帝国建国記ですからの。何しろ帝国は千年の歴史があるのです。聖女様が初めて聞かれたというのもわかります」
「しかし、先生。アリストン王国の聖女様はどうなるのですか?」
同じCクラスのアレンが聞いてくれた。
「アリストン王国は5代目の皇子様が枝分かれして作った王国でしてな。ただし、その王国は3代で血統が絶えてしまったのです。そこで彼らは考えたのです。聖女様を異世界から召喚すればよいと。それから王国を維持するために、聖女様を異世界から召喚することになったのです。聖女様の血統が途絶える度に異世界から聖女様を召喚しておりましたが、今のように聖女様が死ぬ度に聖女を召喚するようになったのはここ2百年くらいですな」
先生が言うんだけど。
じゃあ、アリストン王国が聖女を頻繁に召喚するようになったのはここ最近の事なんだ。私は初めて知ったのだ。
帝国の歴史は古く、何度も滅亡しそうになったことがあるようで、最近のように巨大帝国になったのはここ3代の皇帝陛下の活躍によるのだとか。その間の動乱でいろんな文献も散逸しているそうで、それを調べるのが先生の専門だっておっしゃっていらっしゃったけれど。
私はいいことを聞いたと思った。
私は聖女じゃないとアリストン王国を追放されたけれど、聖女だってわかればアリストン王国にいなければいけないと思っていた。でも、例え聖女であっても、この帝国に初代聖女様がいたんだったら、この国にいても良いはずだ。
アリストン王国に引き渡されたらどうしようと少し心配していたけれど、その心配がなくなって私は少しほっとしたのだ。
でも、ほっとした私あざ笑うように、私を誘拐しようとして捕まった神官らが毒殺されたのを知ったのは宮殿に帰ってからだった。
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ここまで読んで頂いてありがとうございます。
果たして何が起こったのか?
続きは明朝です。
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