第68話 友達が休みの間、ヴァーノンの草原に来ないかと誘ってくれました
私は皇女様に好き勝手な事を散々言って飛び出したのだ。
もう、どうにでもなれって、感じだった。
「アオイ様!」
エイミーが呼んでくれるが、私は無視して学園の中に掛け込んでしまったのだ。そして、校舎の中に入ろうとして、女の子にぶつかりそうになり、抱き締められたのだ。
「アオイ!」
それは驚いた顔のポーラだった。その横にはエイブとボビーもいた。
「しばらく、風邪で休んでいるって聞いていたけど、大丈夫になったの?」
「風邪?」
私は風邪で休みになっていたのを初めて知った。いつもは、クリフが前もって知らせてくれるのに、今日は話してくれなかった。というか、会えてもいない。
「ああ、もう全然大丈夫よ。家の者が過保護で中々出してもらえなかったのよ」
私が言い訳すると、
「そうだったんだ。とても心配したのよ! 今日来なかったらお見舞いに行こうかって皆で話していたところなののよ」
ポーラが言ってくれた。
そうだ。私にはクリフがいなくなっても、彼らがまだ残っていた。
クリフに愛想尽かされて追い出されたら、ポーラ達を頼ろう!
私はそう思い付いたのだ。
「見舞いに行こうって話していたんだけれど、アオイの家が判らなくてさ」
「そうだよ。どの辺に住んでいるんだ?」
エイブとボビーが聞いてくれたんだけど、ちょっと待った。
これは中々答えられない。
王宮に住んでいるなんて言って良いのかどうかも判らなかった。それにそんな事言ったらこの三人が引いたらどうしようというのもあるし……。
「北のほうかな」
私は適当にごまかした。
「北って何処だよ、北広場の近くか?」
ボビーが細かく聞いてきたんだけど、北広場が何処にあるか私は知らなかった。
「うーん、そのあたりかな」
私は適当に誤魔化した。
「本当か? じゃあ俺の下宿の近くだな。今度どっかに遊びに行こうぜ」
まずい。ボビーの下宿の近くだなんて思ってもいなかった。
「うーん、保護者役の人が許してくれたらね」
「保護者役って誰だよ? 一緒に住んでいるのか?」
ボビーが更に突っ込んでくるんだけど、そんなに突っ込んでこないでよと言いたかった。
私の保護者は一応皇太后様になっているんだけど……そんなの言うわけにはいかないし。
「ボビー、アオイが困っているじゃない」
ポーラが助け船を出してくれた。
「個人のことをあんまり根掘り葉掘り聞くものじゃないぜ」
エイブもフォローしてくれた。
「えっ、そうか? そんなに細かいことまでは聞いていないと思うけれど」
ボビーがそう言った時にベルが鳴ったので私はホッとしたのだ。
1コマ目は礼儀作法の授業だったが、代わりに担任のドーバー先生が入ってきた。
「あれ、魔術実技の時間でしたっけ?」
エイブが聞くと
「今日はマイヤー先生は休みだから休講になった」
「「やった」」
ボビーとエイブが喜んで言うが、
「何を喜んでいるんだ。その分夏休みに補講がちゃんとあるからな」
「「ええええ!」」
ドーバー先生はがっかりすることを言ってくれて、皆からブーイングが上がるが、どうしようもない。
先生の休校の分は全て夏休みに補講として行われるので、休校が多いほど夏休みが少なくなるのだとか。それは最悪だ。それにマイヤー先生は絶対に私を大聖堂に連れて行った責任を取らされての懲罰的な謹慎期間だと思う。早く復帰してもらわないと夏休みが無くなりかねない。私は皇太后様にそのあたりのことを聞こうと思った。
「アオイはゴールデンウィークはどうするの?」
学食で時間を潰していた私にポーラが聞いてきた。
そう、この世界にも日本みたいにゴールデンウイークがあるのだそうだ。何でも別名聖女週間と言われているそうだ。どうやら、ここ100年間に来た歴代の聖女が持ち込んだらしい。学園では創立記念日と帝国の設立記念日を合わせて10連休になるのだ。
私はここ最近のドタバタで何も考えていなかった。
クリフはあの感じではしばらく私の相手もしてくれないと思う。
「何も無いのなら、私の故郷に来ない?」
ポーラが誘ってくれたのだ。
「ポーラの故郷って、キンロスとの国境に近いところよね」
「そうなの。家族がこの連休は帰って来いって煩くて。馬で片道3日の距離だから少し強行軍だけど」
「でも私、馬には乗れないわよ」
「別に大丈夫よ。私の馬に一緒に乗れば。エイブも来たいって言ってくれたから、アオイが来てくれたらボビーも来ると思うし、エイブもボビーも馬に乗るのは自信があるって言っているから、何なら交代で一緒に乗ってもいいし」
ポーラが言ってくれるんだけど……
ポートの相乗りはクリフのときと違ってまた色々楽しいかもしれないし、気心のしれた友達と旅行したら、私の気も紛れるかもしれない。
「判った。保護者に聞いてみるわ」
私は行く気満々になっていたのだ。
でも、宮殿に帰るとそれどころではない一大事が起こっていたのだ。
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