第67話 クリフが隣部屋に帰って来ないのでショックを受けていたら、皇女様に酷いことを言わたので思わず反論してしまいました

私はその日の夜はドキドキしてベッドに入った。


でも、嬉しいドキドキじゃない。


そんなクリフにドキドキできる状況じゃないのだ。


「アオイ、邪魔するな!」

そう叫んだクリフはとても怖かった……


まあ、クリフとしたら、愛していた聖女様を殺されたのだ。その男を殴りつけるのを邪魔した私を怒る気持ちも判らないではなかったけれど、今までクリフにそんな事をされたことのなかった私は、とてもショックを受けたのだ。

だってクリフはいつも私が酷い目にあっている時に助けてくれる側だったのだ。


確かに、元々聖女様が殺されたと聞いた事を、私が何の考えも無しにクリフに言ったのが間違っていた。


それはよく判るんだけど、そのクリフに突き飛ばされた私はショックだったのだ。


「寂しくなったら、また殿下の所に行けますね」

ってエイミーが言ってくれたけれど、そんなの行けるわけ無いじゃない!


それよりも、

「何故、お前がこの部屋を使っているんだ!」

と怒鳴り散らされないかとそちらを気にしていたのだ。




でも、やっぱり、今回の件はクリフの気持ちを何も考えずに話してしまった私が悪い……


クリフが帰ってきたら一言謝ろう。私はそう思ったのだ。




でも、隣の部屋はいつまでも静かだった。


いつまで待ってもクリフは帰って来なかった。


そして、誘拐されて疲れ切っていた私は、そのまま寝てしまったのだ……





チュンチュン チュンチュン


翌朝、鳥の声とともに私は起きた。


でも寝起きは最悪だった。


夜中に何度か変な夢で起こされたのだ。


全部クリフに突き飛ばされる夢だった。


一度なんて、そのままクリフに殴られる夢を見た。

ものすごい形相で……


とても怖かった。


私は驚いて飛び起きたのだ。


その度に隣の部屋の物音を気にしたが、隣は静かなものだった。



起き出した私は、クリフに謝ろうと隣の部屋の扉をゆっくりと開けたのだ。


でも、その部屋には誰もいなかった。


ベッドは綺麗なままだった。


どうしたんだろう、クリフは?


私が隣の部屋を使ったから怒って自分の部屋に帰ってこなかったんだろうか?


私の頭の中を嫌な考えがよぎったんだけど……



「アオイさん。キャサリン殿下がお呼びです」

朝食を食べて、学園に行こうとしたら、いきなり、皇女様の侍女に呼び止められたのだ。


そして、そこには近衛騎士もいた。


「アンジェラ様。アオイ様にさん付けはよくないのではないのですか」

私の呼び方に対して、エイミーが文句を言ってくれたんだけど……


「何を言っているのです。平民の女の方をさん付けで呼んではいけないというの?」

侍女のアンジェラは反論してきた。

「私の主人をけなす行為です。皇太后様からもそう言う事があれば即座に報告するように言われています」

「えっ? エイミー、さん付けでいいわよ。私は平民なんだから」

「何を仰っているのですか。アオイ様は皇室のお客様なのです。その対応が出来ないものが宮殿にいる資格はありません」

「なんですって!」

「良いのですが? 皇太后様にご報告しても」

そう言うエイミーをアンジェラは睨みつけけると、


「申し訳ありません。アオイ様。皇女殿下がお呼びですので、お越しいただけますか」

様付けに変えてきた。


「わかりました」

どのみち碌でもないことのように思うのだけれど。仕方無しに私はついて行った。


私が馬車に近付くと馬車の扉が開いて、

「さあ、馬車に乗って」

皇女様が言われた。


「しかし、殿下」

エイミーが後ろから食い下がるが、


「エイミー。私の馬車のほうが安心よ。近衛騎士の数も多いし」

そう言うと強引に私を乗せてくれたのだ。


そして、皇女様と私を乗せた馬車は動き出したのだ。


皇女様は無言だった。でも、唇をぎゅっと噛んでいて、私を睨みつけている。

これはやはり碌なことは無いようだ。


王城の外に出ると、

「アオイさん。どういうことなの? 先日はお兄様の部屋で一緒に寝たんですって」

いきなり皇女様が怒り出した。そこが気に入らないのか! 

そこはマイヤー先生にも怒られたし、


「申し訳ありません。私の考えが足りませんでした」

私はとりあえず、素直に謝ったのだ。

皇太后様には認めてもらったが、普通は許されざる行為だ。


「本当よ。どのみちあなたの方が迫ったんでしょう。本当に破廉恥ね」

「殿下。私は添い寝してもらっただけです」

私は思わず言い返したが、

「それが破廉恥だと言うのよ」

皇女様に思いっきり言われてしまった。

でも、その時は側妃様が本当に怖かったのだ。でも、あんな事があったら、クリフを抱き枕にして寝るなんて出来ない……私は少し、悲しくなった。


「申し訳ありません」

まあ、確かにそう言われても仕方がないのだろう。

私は頭を下げた。


「その上、何なの! 今度はいきなり、部屋が皇族のお兄様の隣なんて。本来許されることではないでしょう」

皇女様は、とてもお怒りモードだったが、それは皇太后様等に言って欲しい。


「安全のためだと皇太后様に言われまして」

「でもそれはあなたの方がお断りするのが筋じゃなくて」

皇女様は言うんだけど、


「一般平民の私が皇太后様の言われることには逆らえません」

私はそう言うしかなかった。


「でも、そのせいでアマンダとお兄様の縁談が流れたらどうしてくれるのよ」

皇女様はそう言われるけれど、それは知らないわよ。

本当にそういう事は皇太后様に言ってほしい。

でも、私としては未来の皇太子の隣に立つのがあんなアマンダでは正直嫌だ。


「それに、今朝お会いしたら、お兄様はとても機嫌が悪かったわ。あなたが隣の部屋に来たからではないの?」


そこはそうかも知れない。


その点が気に入らないからクリフは部屋に帰ってこなかったんだろうか?


私はそこが不安になってきた。


「ふんっ、あなたといい、聖女と良い、自分勝手よね。

勝手に異世界からやって来て、お兄様を無理やり婚約者にしたり、護衛みたいに使ったりして。

それだから誘拐されたり、事故にあって死んだりするんじゃないの!」

私はその言葉に完全にプッツンキレた。


何言っているんだ。こいつは! 


私達は好きでこの世界に来たんじゃない! 

無理やり連れててきたのはこの世界の人間なのだ。

何を勘違いしてくれているのだ!


「殿下、言って良い事と悪いことがあるんじゃないですか!」

私がきっとしていった。


「えっ」

いきなり私に反論されて皇女様は驚いたみたいだった。


「私達を無理矢理、この世界に召喚したのはあなた達この世界の人間でしょう! 私達は自分たちの生活をしていたのです。そこには愛する家族もいたんです。


なのに、何よ。強引に召喚してくれて、

お兄様お兄様って煩いわね。

私はね。もう二度とお父さんにもお母さんにも会えないのよ!

でも、貴方は会おうと思ったらいつでも、会えるじゃない!


勝手に来たってよく言うわね!

勝手に召喚したのはこの世界のあなた達じゃない!

 

なのに何! 私が聖女じゃないって判ったとたんに、いきなり、この世界の事を何も知らない人間を放り出すってあなた達、それでも人間なの?

畜生以下よ!

 

お陰で破落戸共に襲われそうになって、そこを助けてくれたのがクリフなの。

クリフは私が襲われそうになった時にいつも助けてくれたのよ。

私にとって、クリフしか頼れる人がいないの!


だから、だから、つい言ってしまったのよ。クリフの婚約者の聖女様がアリストン王国の奴らに殺されたって!

聖女様を愛していたクリフの事なんて何も考えずに思わず言ってしまったのよ。


クリフォード殿下の機嫌が悪いのはその事を知ってしまったからです。

何も考えずに言ってしまった私も嫌われたと思います。

だから、もう、ほっておいて下さい」


そう言うと私は丁度学園の前に止まった馬車から飛び降りだのだった。

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