厠と抜け毛と異界の神

 俺はJR東北本線に乗って赤羽へと向かった。

 別に京浜東北線でも高崎線でも良かったのだが、たまたま一番先に来たのが上野始発の東北本線だったのだ。

 ぼんやりと車窓を眺めながら今日の出来事に思いを馳せる。


 トイレで大をしたら、なぜか異世界にトイレごと転移していた。

 しかもトイレの外にはゴブリンの群れ。そして豊かな大草原と化した俺の頭部。

わけのわからない事の連続だ。

 しまいには謎の巨大な門が現れて、くぐってみたら上野の国立西洋美術館にいた。

 いったいトイレはどこに行ってしまったのだろう?

 帰ってみてトイレがなくなっていたら、これからどうすれば良いのだろう。

 そもそもあれは本当にあった出来事なのだろうか?

 確かに、記憶には放屁魔法の強烈な臭気や爆発の音などが生々しく残っているが、あれが現実の事とはにわかには信じられない。むしろ白昼夢だと言われた方がよほど納得が行く。

 いや、ぜひとも白昼夢であってくれ。


 つらつらと考えていた俺は、ふと車窓に映る自分の姿に重大な変化が起きている事に気付いた。

 なんと、あの大草原が跡形もなく消え去って、元のスタイリッシュなスキンヘッドに戻っているではないか!?

 これはなんとしたことであろう。俺は人目もはばからずに涙した。

やはりあれは夢だったのだ。

 はかないカゲロウのようなひと時の夢。さらば俺の大草原。


 そうこうするうちに赤羽駅に到着した。

 むやみに急な坂道を登って自宅のあるおんぼろアパートについたが、一見何も変わった様子はない。

 不安に胸を締め付けられながらも部屋のドアを開け、中に入ると無事にトイレのドアがあった。

 転移したときはしっかりドアごとあちらにいっていたのだから、おそらく中身ごと戻ってきたのだろう。

 俺は心の底から安堵して、秘密の小部屋の扉を開いた。すると、そこで目にしたのは……


「なんだ、今頃帰って来たのか。いったいどんだけ道草くってたんだ?」


 魅惑のショタ声で話しかけてきたのは、色とりどりの鮮やかな羽毛に覆われた翼を持つ、真珠のようにキラキラ輝く鱗に覆われた手のひらサイズの蛇だった。


「ど……どちらさま……??」


 俺は絞り出すような声で訊ねるのがやっとだった。


【次回予告】

夢オチかと思ったら未知との遭遇をしてしまった俺。

この謎生物は一体何なのか、なぜ俺の家のトイレを占領しているのか。

次々襲いかかる想定外の事態。

そしてついに便器から現れる謎の影!!

次回、「便器と配管とダイナマイツ」

大掃除で便器の黒ズミと格闘しながら待て!!

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