アメ横とバナナと叩き売り
突如鳴り響いた激しい地響き。
俺は恐る恐るトイレのドアを開けると……
もはや洞窟は跡形もなく、俺の足下……山の中腹にブロンズ製の巨大な門がそびえ立っていた。
これは一体……
そう言えば、俺はトイレで沈思黙考する際のお約束で例のポーズ……すなわたロダンの某名作と同じポーズをとっていた。
そして「考える人」といえば「地獄の門」。
「この門をくぐる者は一切の希望を捨てよ」
俺は思わずかの門に刻まれているという銘文の文句を呟いてしまう。
やはりこの門の向こうには地獄の光景が広がっているのだろうか……?
俺は好奇心に勝てず、下まで降りて門の扉に手をかけてしまった。
突如広がる爆発的な光。
音もなく巨大な扉がゆっくりと向こうに開いていくとともに、光が強くなって目が開けられなくなった。
そしてどのくらいの時が経っただろう。
俺はなぜか四角い印象の建物の前にいた。
コンクリートのタイルのような広場に頭を抱えた人が数人立っているブロンズ像。
建物の外階段の向こう側には巨大な弓を引くヘラクレス。
後ろを振り返るとさっきより小さくなった地獄の門があった。
……ここはもしや……いや、間違いない。
敷地内には人気はないが、フェンスを挟んだ敷地の外はぞろぞろと人が通っていて、道の向こう側にはガラス張りの小洒落た建物がある。
ゆるやかなスロープを下りてフェンスを乗り越え、敷地の外に出ると、俺が予想した通り、フェンスの横にはこう書いてあった。
『国立西洋美術館』
どうやら閉館中らしい。そう言えば今日は月曜日だった。
「あ~、あのお兄ちゃん閉まってる美術館に勝手に入った~」
「いっけないんだ~」
通りすがりの子供に指をさして非難されたので、俺はそそくさとその場を去ることにした。
門を出て左に曲がり、まっすぐ行くとすぐJR上野駅だ。
俺はすぐ電車に乗る気になれず、そのまま線路沿いに右に曲がると御徒町方面に向かった。
そこは戦後すぐの闇市から始まった小さな商店が400店以上も集まった超有名商店街、その名も「アメ横」である。
せっかくここまで来たのだから海鮮丼でも食べよう……と思ったのだが、財布がない。
スマホならあるのでペイペイが使えるならなんとかなるのだが……残念ながらアメ横では使える店がほとんどないようだ。
くそっ、これからは必ずトイレにも財布をもちこむようにしよう。
仕方がないので俺は駅へと引き返す。
現金がないのでアメ横名物バナナの串刺しもチョコの叩き売りも素通りせざるを得ない。
断腸の思いで俺はモバイルスイカを取り出し、JR京浜東北線に乗って自宅への帰路についたのであった。
……そう言えばトイレはどうなったのだろう……??
俺は今更ながら疑問に思ったのだった。
【次回予告】
地獄の門を抜けると、そこは上野恩賜公園だった。
トイレはどこに行ったのか。
なぜ魔法を使うたびに髪が抜けたのか。
謎は深まるばかり。
そして電車内で俺は戦慄の事実を知る。
次回、厠と抜け毛と異界の神
SDGs目標7について学びながら待て!!
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