増毛と魔法と地獄の門

 放屁魔法が意外に使えたのは良いが、魔法を使うたびに抜け毛が気になる。

ん?抜け毛だと?

 俺の頭にそんなに毛生えてたっけ??

 ふと頭に手をやると、十数年……じゃなかった、数年ぶりにふっさふさの感触が。


「毛が……毛が生えているだと……っ!?」


 そう。

 俺のさまざまな身体的事情を鑑みてスキンヘッドという超クールなヘアスタイルを選択していた頭部がふっさふさの大草原に覆われているのだ。

 俺は歓喜の涙を流した。

 これなら70年代風ヒッピースタイルからスネオヘアーまで、いかなる髪型も自由自在だ……っ!!

 長年の野望だった東〇仗助のリーゼントだって夢じゃない!!


 いやしかし浮かれている場合ではないだろう。

 先ほど放屁魔法を使った際に毛が数本だが抜けていた。

 なぜこうなったのかはわからないが、おそらく俺がトイレごと転移した際に何らかの理由で俺の頭部に大草原が発生した。

 そしてさらにいくつかの謎スキルが使えるようになったのだが、一部のスキルは使用するたびに数本の毛髪を生贄に捧げなければならないようだ。

 あまり安易に使わない方が良いだろう。


 とりあえず俺は周囲を見渡し、身動きできそうなゴブリンがいないことを確認してトイレの中に戻った。

しっかり鍵をかけてから便座に座ってかのロダンの名高い彫刻のポーズをとって思案する。

 検証しなければならない謎は多い。

 まずここは一体どこなのか。

 なぜトイレごとこんなところに来たのか。

 配管の先はどうなっているのか。

 なぜ髪がふさふさなのか。


 ……考える事がありすぎて、もはやどこから考えてよいかわからない。

 俺は例のポーズで悩んでいるうち地響きと共に、トイレの足元がせりあがっているのを感じた。

 そういえば、あの名作って別の作品の一部だったよな……


 恐る恐るドアを開け、外を見下ろした俺は、洞窟などもはや跡形もなくなり、山の中腹にそびえる巨大なブロンズ製の門の上にトイレが鎮座している事に気付いた。


「まじかよ……」


 俺はごくりと唾をのみこんだ。

そう。

 この門の名は「地獄の門」。

 ダンテの詩を忠実に再現としたというアレである。


「この門をくぐる者は一切の希望を捨てよ」


 俺はこの門に刻まれているというかの銘文を思わず口にした。




【次回予告】

突如現れた巨大な門!

これやはり地獄へと続いているのか!?

好奇心に負けた俺はついに禁断の門を開いてしまう。


次回、「アメ横とバナナとたたき売り」

近所の三歳児の謎言語を解読しながら待てっ!!

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