第六章 第七節 ようやく、ようやくだ

 シュヴーと魔法具については、騎士団へ任せるしかないだろう。――院長やシュヴーについて、まだ消化できていない部分もあるが――。

「……そう。――ということは、一旦メルツちゃんを悩ませていた問題は解決し、求めていた結果に辿り着いた、と考えて大丈夫そうかしら?」

 そのアウローラからの問いに、メルツは「はい!」と、しっかり返事をする。

 すると、彼女の表情が慈愛深いものに変化し、

「――本当に、よく頑張ったわね」


 心の込もった労いの言葉が耳に届き、メルツは、思わず泣きそうになり――、涙が零れないよう俯き、目を閉じて耐える。

 安堵感が、瞬く間に広がっていく。

 あれから一週間経っているが、もしかすると、自分の中でまだ信じ切れていなかったのかもしれない。

 アウローラの言葉で、本当に終わったのだと実感する。


 ようやく、ようやくだ。


 頭の痛い問題が解決し、辛い生活に終止符が打たれた。

 きっと、アウローラと出会わなければ、こんなにうまくはいかなかっただろう。

 何せ、院長もシュヴーも、外面は完璧だ。誰も彼もが、彼らに好感を持っていた。彼らを知らない人たちも、メルツが子どもだからと、孤児だからと、取り合ってくれない人や真剣に話を聞いてくれない人ばかりで……。

 ――だが、この十年間耐えて、やっと、光を掴んだ。

(……泣きそうになっている場合じゃないわ、あたし。まだ新生活が始まったばかり。ここから頑張っていかないといけないんだから!)

 目にぎゅっと力を入れ、ぱっと見開く。

 もう、視界は潤んでいない。

(よし、もう大丈夫!)

 そうして顔を上げると、アウローラと目が合った。

 彼女から、柔らかい微笑みを向けられる。

 その表情はまるで、「大丈夫そうね」と言っているようだ。

 それに返事をするように、メルツは笑顔を返した。

 アウローラはそれに対し、笑みを深めた後、

「新生活はどうかしら? 困ったことはない?」

 と、メルツへ尋ねた。

「今のところ順調です! アウローラさんに教えてもらった『人材派遣事務所』、所長さんがとても良い人で! 素敵なセレクトショップで働けることになった上、困らないように勉強までさせてもらえて!」

 話しながら、徐々に気分が高揚していく。

 ――当初、何ができるのかわからないから、とりあえず、国の斡旋所へ行って仕事を紹介してもらうつもりだった。

 しかし、アウローラから、「斡旋所で、すぐに住み込みの仕事や、即日働ける仕事が見つかるとは限らないわ」という話を聞き、自分が如何に考え無しだったかを痛感した。

 そんなメルツの様子を見ていたアウローラが、「良ければここにも行ってみて。お仕事を紹介してもらえる確約はできないけれど、寮と食堂があるから、所属さえできれば、衣食住は安定すると思うわ」と教えてくれたのが、『マリナー人材派遣事務所』だった。

 更に、「もし、住む場所に困る事態となったら、またここにいらっしゃい」という言葉も添えられた。

 ……本当に、彼女には、感謝してもしきれない。

 そして、孤児院を出た際、その足で早速『マリナー人材派遣事務所』へ向かうと、所長が出迎えてくれて、あっという間に、所属することと、仕事が決まっていた。

 仕事内容は、セレクトショップでの販売の仕事。雇い主は所長で、働く先として受け入れてくれたのがセレクトショップ、という形らしい。

 まさかファッションに関わる仕事に就けるなんて、とかなり驚いた。

 加えて、制服は無いが、代わりにショップで売られている服が支給され、それを着回して接客するらしい。

 ――夢のようだ。

 こんな貧相な身体で大丈夫か、と不安に思い、確認したが、『どんな体型の人でもオシャレを楽しめるように』ということを、オーナーがモットーとしているそうで、「そこは問題ない」とのことだった。

 現在メルツは、店頭へ立つために色々と勉強中なのだが、未だに信じられない気持ちが残っている。恐らく、アウローラ以外の人から教えてもらっていれば、詐欺だと思っただろう。

 人生の幸運が、一気に押し寄せている感覚だ。

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