第六章 第六節 しっかり覚えておかなければ
「Aランクということは、多量の穢れや、中級以下の魔物の浄化が可能ね。あとは――」
そこでふと、アウローラの言葉が途切れた。
彼女の表情を観察すると、何かを考えているように見える。
「――いえ、なんでもないわ。ピュリファイアは、BやCランクの人が多いわ。そして、王都周辺は中級の魔物も多い。Bランクでも複数人であれば対応できるけれど……、それよりも、Aランク一人を呼んだ方が早い、となることもあるわ。だから、魔物と関わるようなオーダーが来る可能性も高い。もし、ピュリファイア関係の仕事を引き受けようと思ったときは、注意が必要よ」
アウローラは、何かを言いかけてやめた後、メルツへ魔物関連の依頼が来る可能性について、注意を促した。
彼女は更に、
「上級の魔物は滅多に出ないけれど、全く居ないわけでもないわ。報酬が高い、Aランクを複数人集めているような依頼は疑う方が良いわね」
と、説明に補足を加える。
非常に為になる、重要な情報だ。しっかり覚えておかなければ。
そう思いつつも、アウローラが先ほど言いかけてやめた話が気になる……。
聞くかどうか少し悩み……聞くのをやめた。
何となく、彼女はこの質問に、答えてはくれなさそうだと感じたからだ。
それに、もし本当に必要な内容であれば、恐らく彼女は伝えてくれるだろう。つまり、今のメルツにとっては重要ではないこと、と思っても問題ないはずだ。
メルツは、自分の中から『詮索する』という選択肢を消し、代わりに、最近起こった出来事の話をすることにした。
「実は、数日前に騎士団の人があたしを訪ねてきて、騎士団への勧誘や魔物討伐関係の依頼の話もされました……。あっ! もちろん、ちゃんと断りました!」
アウローラが心配にならないよう、断れたこともすかさず報告する。
「きちんと断れたようで良かったわ。でも、かなり惜しまれたでしょう?」
「はい……。すごく、残念そうな顔をされていて……。正直、かなり心苦しかったです」
まるで、飼い主に「捨てないで!」と縋る犬の幻影が見えて……。断るのに、かなりの精神力を要した。
もうそのような気持ちにはなりたくないので、今後は訪ねて来ないことを祈るばかりである。
「スキル持ち自体が希少で、その上能力が浄化とくれば、騎士団としては心から欲しい人材だったと思うわ。この辺りを担当している騎士団員は、道理をわきまえているから、無理強いなんてしないでしょうけれど……。一応、注意はしておいてね」
真剣な表情でそう話すアウローラに、同じく真剣な表情で頷き返す。
先ほどの重要情報と共に、しっかりと心に刻んでおかなければ。
「さっき、『依頼の話も』って、言っていたけれど、その騎士団の人は、他の目的でメルツちゃんを訪ねてきたの?」
「あっ、そうなんです。実は、シュヴーや院長がその後どうなったのか、教えに来てくれて……」
誕生日当日の朝に孤児院を出たメルツは、その後、彼らがどうなったのか分からなかった。
気になってはいたが、自分の新生活のこともあり、慌ただしくしている間に、騎士団の人の方から教えに来てくれたのだ。
「えっと、銀バッジを貰った後、院長とも話して、どうにか騎士団入りを避けて、院を出る許可を貰えました。ただ、その後すぐに、院長は騎士団の人たちに連れていかれて……。あたし、誕生日の朝に院を出たので、そこから先、あの二人がどうなったのか知らなかったんです。それで、教えてもらったのは、『孤児院からは、他に穢れは見つからず、そういう魔法具も見つからなかった』こと。『シュヴーは今も、騎士団で過ごしている』こと。『院長は、三日で事情聴取が終わって、今は孤児院へ戻っている』こと」
アウローラへ正しく伝えるため、順に思い返し、話していく。
「院長は、『監督不行き届きで厳重注意』されたけれど、孤児院へ戻ることが許可されて、シュヴーは、『騎士団が取り締まり中の危険な魔法具を使って、人命を危険に晒した』という理由で、今も拘束されているそうです。未だに黙秘を貫いているって話で、魔法具の出所も分からないみたいです」
騎士団の人の説明は、以上だったはずだ。
メルツは、きちんとアウローラへ伝えられたことに安堵する。
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