第六章 第五節 潤んできた目を瞬きで誤魔化す

(……アウローラさんがここまでしてくれたのは、きっと、魔物に襲われたあの日、あたしが倒れちゃったからよね。魔物と対峙できる気がしない、とも話した覚えもあるし……)

 アウローラの配慮と優しさで、知らぬ間に守られていたことを、メルツは実感する。

「あの、アウローラさん。守って下さり、本当に、ありがとうございます!」

 彼女へ、心からの感謝の気持ちを伝える。

「いいのよ。……魔法が発動しなくて、本当に良かったわ。発動するような危険な目にあってほしくないもの」

 その言葉と共に、メルツへ、慈愛の眼差しが向けられる。

 メルツの無事を、心から願ってくれていたとわかる表情だ。

 見ていると、胸がぎゅっとなり、熱くなってくる。潤んできた目を瞬きで誤魔化す。

 ――彼女はやはり女神様ではないか、と本人から否定されているにも関わらず、つい疑ってしまう。

 それは、アウローラがあまりにも、身も心も美しいからだろう。

「メルツちゃん、魔法は、解除しようと思っていたのだけれど……」

「えっ! 解除……してしまうんですか……?」

「……かかっている状態は、嫌ではない?」

「はい! 全く、少しも、嫌じゃないです!」

 解除なんて、そんなの勿体なさすぎる。せっかく、こんなにすごい魔法をかけてもらえたのだ。

 それに、もう危ない目には遭いたくないが、またこんなことがないとも言い切れない。このままかけておいてもらったままの方が、メルツとしては有難い。

「わかったわ。なら、解除しないままおいておくわね。発動回数は、魔物とそれ以外で一回ずつだから、それだけ気に留めておいてちょうだいね」

「はい! ありがとうございます!」

 アウローラが守ってくれていると思うと、とても心強い。――だからといって、それに胡坐をかかないようにしなければ。魔物や暴力とは、縁遠いに越したことはない。

「こちらこそ、許してくれてありがとう。……話を脱線させてしまってごめんなさい。続きをお願いできるかしら?」

「あ、はい!」

 そういえば、まだ話の途中だった。

 メルツは、続きを話し出す。

「魔法具を使ったシュヴーは、騎士の皆さんに捕らえられ、あたしは、指導官の人に見守ってもらいながら、魔法具とシュヴーを浄化しました。これが、その証です」

 メルツはそう話しながら、パーカーワンピースのポケットから、銀のバッジを取り出し、それをアウローラへ見せた。

 指導官の青年に「失くさないように身に着けた方が良い」と言われ、最初はその通りにしていたのだが、鏡で見た際、格好から浮いている気がして、一旦外すことにしたのだ。新しい服を買ってから、着けようと思う。

「緑の石ということは、Aランク……。思った通り、浄化の力は強かったみたいね」

 その言葉を聞いて、メルツは驚く。

「アウローラさんは分かっていたんですか⁉」

「うーん……。どのランク、までは分からなかったけれど、強いとは思っていたわ。少なくとも、一番下のランクであるCや、その上のBではなさそう……と。SS以上はそうそうないから、であればSかA……くらいの当たりはつけていたわ。あとは、初めて会ったときは、目覚めたばかりで安定していないのかも、ということと、次に会ったときは、安定したように感じてはいたわ」

 アウローラの話を聞いて、更に驚く。

 メルツ自身は、力の強さも状態も、全く自覚がなかった。だが、アウローラはそれに気がついていたとは。

 ……アウローラは、なんでも見通せる目を持っている、というようなスキルを持っているのだろうか。本当にすごすぎる。

 またしても、なんてことないように彼女は話しているため、これもまた、魔法を使える人に出会ったら聞いてみよう、と心の中に留め置く。

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