第六章 第三節 人生で最も大きく、そして重要な出来事だった

「あの、アウローラさん。伝え忘れていたんですけれど、今日来たのは報告のためなんです。すみません、来るのが遅くなってしまって……」

「……そうだったのね、ありがとう。でも、報告は義務ではないわ。だから、気にしなくていいのよ。……心配ではあったから、こうして元気な姿を見せに来てくれたのは嬉しいけれどね」

 申し訳ない気持ちで謝罪したメルツに対し、アウローラはそう言って、柔らかな笑みを零した。

「いえ、沢山助けてもらったので、やっぱり、どうなったのかはきちんと伝えたくて……。それに、改めてお礼も……。マスターにも後で伝えるつもりですが、まずは――」

 居住まいを正し、アウローラとしっかり視線を合わせる。

「噴水から始まり、怪我を治して頂き。魔物から助けて下さり、ここまで運んで寝かせて頂き。温かいご飯を、お腹が満たされるまで食べさせて下さり、その上、相談にも乗って頂き……。今のあたしがあるのは、お二人のおかげです。本当に、本当に、ありがとうございます! どうやってこの恩を返せばいいか、まだわかりませんが、必ず返します!」

 メルツは、思いの丈を、アウローラへ懸命に伝える。

 彼女と市場の噴水で出会わなければ、メルツは今頃、この世に居なかっただろうし、望む未来へ向かって歩みを進めることも出来なかっただろう。

 今回の件は、メルツの人生で最も大きく、そして重要な出来事だった。

「気にする必要はない、と言いたいところだけれど……。メルツちゃんの気持ちは、きちんと受け取ったわ。そうね……。では、恩返しとして、またこうして遊びに来てくれないかしら?」

「……えっ! そんなの、恩返しにならないです! 恩返しとか関係なく遊びに来ます!」

「うーん……、それで十分なのだけれど……。まあ、この話はまた今度にしましょう。せっかくだから、メルツちゃんの話を聞かせてもらってもいいかしら?」

 ――確かに、恩返しの内容がすぐに思いつかないのだから、アウローラの言う通り、その話は後日にした方が良いだろう。

 そう思ったメルツは、カフェを出てからのことについて、順を追って話し出した。

「はい、わかりました! ……ここを出た後、アウローラさんたちと一緒に考えた計画通りに動きました。まず、ピュリファイア試験を受けに行き、無事合格。その後、試験会場横の騎士団本部へ行って、事情を説明しました。アウローラさんの言っていた通り、ちゃんと対応してもらえました!」

 まず、院長のことについて対応するためには、ピュリファイア試験を早急に受け、合格する必要があった。

 幸い、ピュリファイアを増やすことに国が積極的なため、毎日試験が開催されており、当日申込も可能な状態だった。だからメルツは、すぐに試験を受けることができた。

 ……一発合格できるか不安だったが、浄化スキル持ちであれば難なくクリアできるレベル、とアウローラが言っていた通り、問題なく合格することができた。

 ただ、それだけでは「ピュリファイアになった」とは言えない。指導官の前で、浄化が問題なく行えることを証明して初めて、正式なピュリファイアとして認められ、その証である銀のバッジを手に入れることができる。

 アウローラは、「この指導官を、騎士団の人に担当してもらって。そして、孤児院へ一緒に来てもらうの。そこで、『魔物をけしかける魔法具』とシュヴーを浄化する。それを、証明とすれば良いわ」と、メルツへ提案した。

 更に、「騎士団は、手を焼いていた魔法具とその使用者を確保することができるのだから、きっと協力してもらえるわ」とも。

 その話の通り、試験の監督官の方から、指導官についての話があった際、大まかに状況を説明すると、そこからはとんとん拍子で話が進んでいった。

 正直、スムーズに進みすぎて怖くなったくらいだ。

「そう、よかったわ」

 そう言って微笑んだアウローラは、まるで、この未来が見えていたかのようだ。

 メルツが知らないだけで、そういった魔法やスキルが存在するのだろうか。

(――と、それを考えるのは後。今は続きを話さないと)

 思考を戻し、続きを話しだす。

「騎士の皆さんと一緒に孤児院へ向かうことになって。準備が終わって院へ到着したのは、遅い時間になっちゃったんですけれど……。騎士の皆さんがいるって思うと、安心感がありましたし、魔法具で呼び寄せられた魔物も討伐して下さったので、本当に良かったです」

 思い返して、改めてほっとする。

 もしも、騎士団を頼らずに孤児院へ戻っていれば、きっとメルツは、また魔物に襲われていただろう。

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