第四章 第十一節 本当に幸運だった
事態は、自分が想像していた以上に悪いようだ。
それに、
(今日のお昼は大丈夫だったけれど、今こうしている間にも、大変なことになっているかもしれないわ)
改めて思い返しても、嫌なことばかりだった孤児院生活。しかし、だからといって、魔物になればいい、とは思えない。
それに、魔物が関係のない人を襲うことを考えると、見て見ぬふりは到底できない。あんな恐ろしい生き物、誰も出会いたくはないだろう。
そうして考えていると、気持ちがどんどん急いてくる。
――ふと、アウローラと、キッチンにいるオーンドカルムが視線を合わせていることに気がついた。まるで、視線だけで会話しているようだ。
すると、アウローラは立ち上がり、メルツの方へ向き直って、視線を合わせた。少し困ったような表情を浮かべている。
「気持ちはわかるけれど、まだ大丈夫よ。理由は、説明できなくて申し訳ないのだけれど……。焦らせてしまってごめんなさい」
落ち着かせるような、安心させるような声音を聞いて、
「あっ……。いえ、あたしこそ、すみません……」
自身が、失礼な態度を取ってしまった、ということに気がつき、謝罪する。併せて、焦りが少し落ち着いてきた。
それに、
(アウローラさんが『大丈夫』って言っているなら、きっと本当に、まだ大丈夫なのよ。『理由は説明できない』ってことは、きちんとした理由があって、あたしには話せない内容ってことだろうし。……ちょっと寂しい気もするけれど、ううん、今は、その言葉を信じよう)
そう思うと、騒がしかった胸の内が、ぴたりと静まった。
それに、よくよく考えれば、メルツはピュリファイアではない。これから取ろうとしている身だ。そのため、浄化はできない。
更に、魔物と戦う術もないため、シュヴーが魔法具を使えば、襲われてそれで終わり。
だから、今の自分ではどうにもできないのだ。
メルツが落ち着いたのを見計らったかのように、アウローラが話し出す。
「一つ、案があるの。これなら、穢れ問題も、シュヴーくんから命を狙われている問題も、院長に丸め込まれないようにすることも、全て包括できていると思うわ。ただ、この案を採用する、しないは、メルツちゃんの判断に委ねるわ。話している内にもっと良い案が出れば、そちらでも構わない。まずは、話を聞いてくれないかしら?」
――そんな案があるのか、と驚く。
問題全てが一気に片付く策など、メルツには全く思いつかない。
だが、本当にそれで片付くのであれば、メルツにとっては願ってもないことだ。
「はい、聞かせて下さい!」
「ありがとう。なら、この話の続きはご飯を食べてから、ね。あと、今日は泊まっていきなさい。美味しい朝ごはん付きよ」
アウローラは、悪戯っぽい笑みを浮かべながら、「まあ、作るのはうーさんだけれどね」と言い添える。
――メルツは、感謝の気持ちでいっぱいになった。少しだけ、目が潤む。
こんなに良くしてもらって、どうやったらこの恩に報いることができるのか。アウローラたちに助けてもらえた自分は、本当に幸運だった。
そのことを噛みしめながら、元気よくお礼を言った後、メルツも、食事の用意を手伝った。
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