第四章 第九節 自分の中で、意志を固めていく

(でも、あたしの思い込みな可能性も、ある……?)

「――本来なら、本人に確認を取って……、というところだけれど、流石にそれは難しいと思うの。先にシュヴーくんと出会ってしまえば、そこでアウト。運よく院長に会えた場合も、この確認をした時点で、恐らく、メルツちゃんの手から選択肢は失われてしまうわ。聞いている限りだと、なかなか狡猾な人物のようだから。なら、ここはメルツちゃんの思うように受け取るのもいいのではないかしら?」

 アウローラの言葉は、まさに驚きの連続だった。

 これまで、孤児院での生活において、察する努力をしてきた。しかしまさか、察しない、という選択肢があったとは。

 彼女の見解は、メルツだけで考えていれば、きっと出てくることはなかっただろう。やはりアウローラは、大変頭の回る女性なのだと実感する。

 ――試しに、察しなかった場合どうなるのか、イメージしてみる。

「……。もしかして、ピュリファイアの資格を取って報告して、誕生日を迎えれば、元々考えていた状況になる……?」

 イメージの結果が信じられず、小さく声に出してみる。

 その考えを肯定するように、アウローラが頷いた。

「だから、院長の件については、後はメルツちゃんの気持ち次第だと思うわ」

 その言葉の後、彼女は少し考え込むように目を伏せ……、少しして、再びメルツと視線を合わせた。

「これは、私の個人的な考えなのだけれど。浄化の力を得たからといって、必ず特定の道を選ばなければいけないわけではないわ。ピュリファイアの資格は取ったけれど、それを本業にしていないヒトもいるし、思いもよらないような形で活用しているヒトもいる。様々な選択肢があるわ。もちろん、騎士団へ入ることも、選択肢の一つ。どれを選んでもいいの。ただ、その選択は自分だけのもので、他者が強制するようなものではないのよ」

 彼女の言葉が、心に沁みる。まるで、メルツの背中を押してくれているようで。

(これが、最初で最後の、『反抗期』というものかもしれないわ。これまで従ってきたけれど……、もう、十分よね)

 深呼吸をする。

 ただ、言葉にするだけなのに、心臓がドキドキしている。

 想いをぎゅっと抱きしめるように、右手を胸に当て、口を開く。

「これまで、院長に従ってきました。院長の言うことは絶対で。今回のことも、心のどこかでは、従うしかないって思っていて……。状況が変わってからも、それ以外の選択肢はない。――死にたくないけれど、死ぬしかないって。それに、『死にたくない』って気持ちも、どこか曖昧な感じがしていて……」

 これまでの自分の気持ちを、思い返すように話していく。

「けれど、やってみたいことを考えてみて、あたし、やりたいことがいっぱいあるって思って。他の道があることも知って。……そうしたら、『死にたくない』って気持ちが、はっきりと形になった気がするんです」


 ――だから、もう、死ぬことを受け入れられない。


「魔物を目の前にして、思いました。やっぱり、あたしに騎士団務めはムリです。孤児院に、院長に恩があるとしても、あたしは、あの恐怖を何度も経験したくない」

 自分の中で、意志を固めていく。

「孤児院のこと、これまで、あたしなりに頑張ってきました。ちゃんと頑張れてなかったかもしれません。でも、沢山の嫌がらせにも耐えながら、言われたことはやってきました。元々、十六歳になれば出ていく決まりで。これまでやってきたこと、それからピュリファイア資格の取得。これで十分、『恩を返した』と言えると思います。『足りない』と言われても、命まで狙われたんです。もう、そこまで言うことを聞く気にはなれません!」

 言い切った。――そんな達成感を感じる。

 心臓は変わらずドキドキしているが、緊張よりも興奮が勝っている。

 ハッキリと断言したことで、なんだか心がスッキリした気がする。今なら何でもできそうな、そんな気さえしてきた。

「ええ、メルツちゃんの決意、見届けたわ」

 アウローラが、嬉しそうな表情で、そう声をかける。

「院長については、もう大丈夫そうね」

「はい!」

「資格の取り方については……、また後で説明するわね。先に、シュヴーくんについて考えましょうか」

「よろしくお願いします!」

 何でも乗り越えていけそう、という気持ちと共に、元気よく返事をしてから、気づく。

 資格の取り方について、具体的に把握していなかった、ということに。

(アウローラさんがいて、本当に良かったわ。あたしも、最低限のことは知っているけれど、その情報も正しいとは限らないし……)

 知識の確認を含め、アウローラに聞いておいた方が良さそうだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る