第一章 第九節 しっかりと教えてもらえることは素晴らしい
「あの、色々と考えて下さってありがとうございます! その、良ければ、偽装魔法がどんなものなのか、教えてもらえないでしょうか?」
思わず身体が前のめりになってしまい、慌てて元の姿勢に戻る。
「あっ、ごめんなさい。基本的な説明を失念していたわ。そうね、偽装魔法についてと、あとは一応、そもそものところも話しておくわね」
アウローラは、申し訳なさそうな表情で謝罪し、メルツへ説明を行った。
「まず、○○魔法と呼ばれているものは、『魔法を使って○○という特定の事象を起こす』ことの総称よ。属性情報が必要な場合、『○属性の○○魔法』という表現をするのが一般的ね。先ほど使った魔法で例えるなら、『氷属性の回復魔法』という形になるわ。実は、回復魔法にも更に分類があるのだけれど……、今回は説明を省かせてもらうわね。注意点としては、属性によって、もたらされる効果や、事象の具現化のされ方がやや異なる点よ。状況によっては、その魔法が逆効果に……なんてこともあるわ」
彼女の説明を聞きながら、メルツは、内容を自分の中に落とし込んでいく。
(なるほど。ということは、さっき少しひんやりとした空気を感じたのは、氷属性の回復魔法だったからで、例えばこれが炎属性だったら、また違う感じ方になるってことね)
メルツはいつも、市場で見聞きした情報から色々と考えたり、学んだりしていた。
その理由は、孤児院の学びの場に、メルツが参加することを許されていなかったためだ。
確かに、市場でも情報は得られる。しかし、それが本当に正しいものなのか、噂の域を出ないものなのか、メルツには判断できない部分も多く、困っていた。
けれども今、魔法を扱う人から、直接きちんとした説明を受けてみて、思った。しっかりと教えてもらえることは素晴らしい、と。自分の理解度や知識の吸収速度が違うように感じる。
あとは、アウローラの話すスピードが、メルツを気遣ったものになっていることも一因だろう。話についてきているか、こちらの様子を窺いながら教えてくれている。
メルツは、この幸運な機会に、心から感謝した。このような形で好奇心を満たせる機会など、そう多くはないからだ。
「そして、偽装魔法についてだけれど、これは言葉の通り『物事を覆い隠し装うための魔法』よ。今回のことを例にすると、『怪我が治ったという事実を隠すために、治っていないように装う』ということ。『魔法で怪我をしているように見せかける』という表現の方が伝わりやすいかしら?」
「……実際は怪我なんてしてないのに、他の人から見ればしているように見える、ということですよね?」
「その通りよ。私の連れは、複数の属性が扱えて、更にそれを上手く組み合わせることも得意なの。そして、魔法の精度も高い。だから、早早に見破られることはないと思うわ。ちょうど私は、その彼をここで待っていたところだったの」
そう話すアウローラの表情からは、話の中の彼への信頼が見て取れた。いったい、どういう関係なのだろうか。
(偽装魔法も見てみたいし、お願いしてみる……? いつ頃来られ……というか、今何時――)
そのとき、広場に、軽快な音楽が流れ始めた。爽やかな朝に相応しいメロディだ。
その音楽を聴いて、メルツは、自身が何故市場にやってきたのか、目的を思い出した。
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