友達

煤元良蔵

友達

 彼は友達を欲している。友達を見つけたら……自然と友達に近づいて……どこかに連れ去っていく……。


「魔法使いミチョチョの12話観たか!!」


 塩田ケイが過去に聞いた事のあるオカルト話を思い出した時、目の前で胡坐をかいて五個目のハンバーガーを頬張っていた恰幅の良い畑中亮が身を乗り出して聞いてきた。


 「観ました観ました。ミチョチョと生き別れの兄が再開するシーン……あそこは痺れましたねぇ」


 と、ケイの横に座ってペットボトルのお茶をチビチビと飲んでいた眼鏡を掛けた剛力学が鼻息荒く答える。

 そんな友人二人を眺めながら、ケイは菓子パンを頬張る。それが塩田ケイの学校生活のルーティーンの一つだった。


「「どう思いますか。ケイ君は!」」


 と、たまに話題を振られるが、アニメを全く観ないケイが答えられるはずもない。話題を振られるたびに「ん?まあ、面白いならそれでいいんじゃね?」と言葉を濁しているが、亮と学は嫌な顔一つせず「これを機にケイ君も魔法使いミチョチョを観ましょう」と言ってすごい熱量でその作品の魅力を語ってくれる。

 

「それでは教室に戻りましょうか」

「そうだな」


 ゴミをレジ袋に入れて亮と学は立ち上がった。


「あ、先に戻っててくれるか」

「ん?どうかしたのですか?」

「いや、ちょっと一人になりたくてさ」

「そうか、じゃあ、先に戻ってるぜ」


 亮と学は魔法使いミチョチョの話をしながら屋上の入り口に向かっていった。

 

「ふぅ……」

 

 亮と学を見送った後、ケイは仰向けになって空を見上げた。鉛色の雲から今にも雨が降ってきそうな天気だった。


「どうしたのケイ君」


 ぼんやりと空を見上げていると、頭上から声が聞こえた。視線を上に向けると、屋上の入り口にいつもと変わらぬ笑顔を浮かべる幼馴染が立っていた。


「熊か……いや、なんか寂しいなって思ったんだ」

「寂しい?」

「ああ、友人には恵まれてるし、学校生活も充実してる。黒田熊っていう昔からの腐れ縁の奴もいるんだけどな……何か寂しい」

「十分贅沢過ぎると思うけど?」


 ケイの横に腰を下ろした熊はそう言って笑った。


「まあ、そうだな」

「そうだよ。それに僕は君の親友だよ?間違っても腐れ縁ではないよ」

  

 ケイは上体を起こして、伸びをした。


「じゃ、俺は行くわ。お前も昼休みが終わる前に教室戻れよ」

「うん」


 熊に見送られ、ケイは教室に戻った。

 

「だいぶ遅かったのですが、何かあったのですか?」


 教室に戻ると、亮と学が近づいてきた。

 

「あ、ああ。悪い。熊とちょっと駄弁ってて」


 ケイは苦笑いを浮かべて弁明する。しかし、ケイの言葉に二人は首を傾げている。


「熊?ホッキョククマとかのクマですか?」

「そんな奴、この学校にいたっけ?」

「はぁ?何言ってんだよ。俺の親友の黒田熊だよ。お前たちと入れ違いで屋上に来た奴だよ。まあ、お前たちに紹介してなかったから、顔は分からないだろうけど」

「いや、僕たちは誰ともすれ違ってませんよ?そうですよね?」

「ああ」

「いやいや、そんな訳ないだろ?」

「僕たちが嘘をつくと思います?」

「……」


 その時、ケイはとある噂話を思い出した。

 彼は友達を欲している。友達を見つけたら……自然と友達に近づいて……どこかに連れ去っていく……。


「ケイ君?」


 亮と学が心配そうな顔でケイを見つめてきた。


「大丈夫だ」


 作り笑いを浮かべたケイはそう言って、不安を頭の隅に追いやった。

 次の日。

 塩田ケイは忽然と姿を消した。

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