第18話 キャッシュレスの話

 まいった。

 コンビニに入ったはいいが、何を買いに来たんだったか忘れてしまった。

 あるんだよなー、こういうとき……。

 で、せっかく来たんだからなにか買わないと、とか思って大抵そんなに必要じゃない物買っちゃう、というオチつきになるんだよなー。

 金額は小さくても、こういうのが積もりつもって月末なんかお財布が苦しいってことになる。

 やめときゃよかったかなー。

 ま、いいや。

 今日の俺は給料日後のお大尽様だから、多めに贅沢してしまおう。


 まいった。

 財布を忘れてきた。

 コートのポケットに入れたはずだけど、どうやら別のコートのやつに入れてたらしい。

 あるんだよなー、こういうとき……。

 オンとオフとで使い分けてると、いつの間にか財布を入れてた服を間違えてる、っていうやつ。

 この前は手袋を忘れたんだよなー。

 なんでか手袋はオンオフの使い分けをしたくないんだよな。

 なんでだろうな、験担ぎなのかな?

 ジョブズが決まった服装でしかプレゼンに出なかった、っていうあれ。

 あ、あれはルーティーンって言ってたっけか?

 ま、いいや。

 今日の俺はハイテクスマホでクールにキャッシュレス決済してしまおう。


 まいった。

 スマホも忘れてきた。

 なんかパンツのポケットが軽いなー、と思ってたらこれだよ。

 あるんだよなー、こういうとき……。

 レジで支払いはキャッシュレスで、っていい声で言おうと思ってたらこれだよ。

 もう金額計算が済んで支払うだけってなってたのなー。

 自慢じゃないが初対面の人からも「いい声ですね」って頻繁に言われるから、このコンビニの店員さんにも聞かせたろうと思ってたら「ええ!? スマホがない!?」とか間の抜けた大声出しちゃったよ。

 美人な店員さんが声殺しつつ顔真っ赤にして笑ってるし。

 後ろに並んでたおっさんは酔ってんのか顔真っ赤にして「ああ!? 兄ちゃんスマホ忘れちったのかあ!? 俺もだよお! ブヘヘヘヘ!」って大声でイジってくるし。

 結局なにも買わずに恥だけかいて帰った。

 

 ああ、ジョブズ許せねえ。

 キャッシュレス決済できるスマホがあるじゃんって俺を油断させたジョブズ許せねえ。

 いつかこの仇はきっと討つ!

 そう思ったけど、無理な話と気づいて、しょんぼりして帰った。

 お大尽様でもクールでもなく、間抜けな奴がいるだけだ。

 あーあ! 明日はいいことないかなー!

 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る