第19話 ゾンビの話
映画研究会の部室の引っ越しも佳境に入り、荷ほどきを残すのみとなった。
まあこいつが曲者ではあるのだが……。
ともかく移動は終えたので、一段落して午後のティータイムに入る部員たちであった。
「ところでちょっと思ったんだけど、階段の行き来が割ときつかったね」
十郎が言った。これに答えて美香子が、
「私達の場合は運動不足もあるけど、先輩方の残したものが結構あったからなあ。できれば処分したかったんだけど」
「うちの先輩方、十年前に卒業した人すら入り浸ってきますからねえ。下手に捨てたら何が起こるか……」
光子郎が渋い顔で言った。
一同、同様の表情で頷く。
やや沈黙があって十郎が、
「で、運んでる途中で気になったことがあってさ、ゾンビ映画に詳しい人ってうちの部にいたっけ?」
「詳しいの定義によりますけど、僕はちゃんとしたゾンビ映画を見た記憶がありませんね。美香子さんはどうですか?」
「ないなあ。ゾンビ映画を茶化したようなのを見たかもしれないってぐらい曖昧な感じ」
二人の回答を聞いて十郎は軽く唸り、
「じゃあ疑問は解決しない感じかね。いやさ、ゾンビ映画のゾンビって結構動きが鈍い印象がない?」
「伝聞とかPV程度の知識ですが、たしかにそうですね」
「そうだなあ、走るゾンビが新しいって言われてるのを聞いたぐらいだし、基本的に鈍いものなのかなあ。でもこれお茶してるとき話していい内容かなあ?」
と言って美香子は苦笑する。続けて、
「まあ、気になるから良いけど。十郎くんはなんで階段の上り下りでゾンビの話に?」
「そうそう、そこなんだけどさ。ゾンビに追いかけられても高層建築の多い場所なら大丈夫なんじゃないかねって。ゾンビは階段を上るのにかなり時間かかるでしょ、きっと」
「ふーむ……確かにそう思えますね。ただ設定的にクリアしてるのは結構あるんでしょう。我々は知らなくとも結構な数のゾンビ映画があるはずでしょうし、そこぐらいは考えているんじゃないですかね」
だろうねえ、と言って十郎は茶を飲む。
その間に美香子が、
「私の記憶の中だと、先輩方、ゾンビ映画とかあんまり語ったり作ったりしてる様子があんまりないなあ。それが私達にも影響してるんじゃないかなあ」
「あるかもしれませんね。ただ結構メジャーなジャンルですし、なぜそれにまつわる活動がないのかは気になりますね」
光子郎が言った。
「僕もなんか気になってきたから、いつか聞いてみるといいかもね」
「十郎くんのいつかやる発言は結局しないこと多いですけどね」
「嫌なとこ突いてくるね、君は! まあ、大した理由じゃないだろうし、し忘れても問題ないでしょ?」
それもそうだ、と一同は笑った。
しかし、彼らの映画研究部でゾンビ映画にまつわる活動がないのはきちんとした理由がある。
それは忌まわしき記憶であり、禍根となるからこそ残していないのだ。
彼らが知るべきかどうか……知らぬが仏の言葉もある。
あえて探らないほうがいいのではないだろうか。
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