第8話 小さな話
健康診断に行ったとき、着替えるために腕時計を外してロッカーに仕舞った。
診断は一時間ほどで終わり、早く帰って本を読もうと思いながらクリニックを出た。
腕時計をロッカーに忘れたかもしれない、と思ったのはクリニックから五駅ほど離れてからだった。
電波時計のくせに分針が二、三分遅れている古い時計だったので、買い替えの時期かもしれない、と思い諦めようとした。
だが壊れたわけでもないし、分針の遅れを意識すれば問題なく使えていたので、わざわざ買い替える必要もないかもしれない。
わざわざクリニックまで戻るか? それとも新しい腕時計を買って自慢してみるか?
少々悩んだ。
結局、別の少し急ぐべき用事を思い出し、自宅に戻ったのである。
自宅で服を着替えているとき、上下のポケットの上を叩いたり中をまさぐってみたりしたが、腕時計らしい物は入っている様子がない。
これは予算を組むべきだな、と思いながら問診票を持参するのに使ったリュックサックをフックにかけようとすると、手が滑ってドサッと落ちた。
そのはずみで、ペットボトルなどを挿せるリュックサックのポケットから失くしたと思っていた腕時計が飛び出してきた。
あきれた。あきれはてた。
ずいぶんとスケールの小さい話である。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます