第7話 小さな頃に読んだ本の話
空が杏色に染まる夕暮れ。
あの鮮やかな赤みを帯びた紫を見ていると、ジャム猫という話を思い出す。
たしか小さい頃に母が図書館から借りてきた絵本だったと思う。
主人公は猫で、彼とは別に小さな猫がジャム猫という渾名だったはずだ。
怯えた様子のジャム猫に対し、主人公は尋ねる。
「何がそんなに怖いのか」と。
ひどく気弱なジャム猫は語りだす。
彼はある老婆を恐れていた……といったあらすじだと記憶している。
だいぶ幼い時分でタイトルもどういう結末だったかも忘れてしまったので、気になっても簡単には調べられない。
図書館に行けばレファレンスと言って調べ物をする人には救世主のようなサービスを司書さんに頼めるはずである。
が、ジャム猫の話が本来どんなタイトルでどんな結末を迎えるのかについては私の中ではどうも優先度が低いようで、いつか尋ねてみようと思いつつも延び延びになってしまっている。
ジャムといえば『ジャイアント・ジャム・サンド』という題のイギリスの絵本があったのも覚えている。
何千匹もの蜂を退治するべくジャムサンドを作る、あの荒唐無稽さはアメリカ流儀のような気がしているものの、子供にもわかりやすいホラ吹き話で私はとても気に入っていた。
特にトラクターを飛ばすシーンが好きで、何度も母にそのページを見せてくれるよう頼んだ記憶がある。
そういえば、絵本というものをベストセラーにするのは難しいことらしい。
もっとも難しくないことなどこの世にはあまりないものの、私が思っているよりも遥かに高い壁があるようだ。
短く、わかりやすく、明確に、かつユーモアをもたせる。
それが最低条件だとかなんとか。
子供、特に幼児という存在は面白さには敏感だろうし感想もおおっぴらに遠慮なく表現するだろうから、よく準備したとしても大人向けの娯楽に比べて手強いに違いない。
ところで……、『カングルワングルの帽子』という絵本でもジャムが登場する。
だが今思うと、ジャムというよりはゼリーかもしくは砂糖漬けかなにかではなかったろうか。
あれも昔の本になるので、いかに日本の子供へ面白さを損なわずに訳せるか、という訳者の苦労がしのばれるのである。
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