第4話 歌の話

 重語という言葉がある。

「馬から落ちて落馬する」とか「ダンスを踊る」とかそういったものだ。

 トートロジーと言い換える手もあるが、知名度のある単語と言っていいのかわからないのでやめておく。


「歌を歌う」も同様の重語だ。

 しかしこいつ、なかなかに厄介である。

 さきほどの例、「ダンスを踊る」にも言えることだが、言い換えの表現がしっくり来ないのだ。

 

 口ずさむ、だと小声の印象だ。

 口をついて出る、だと無意識の行為に限定されて、助詞も「を」から「が」に変わってしまう。

 ならば、ハミングする、ならどうか?

 これも歌詞ありの状況に対応できない。

 なかなか悩ましく、語彙力ないし表現力を問われる問題(これも重語!)だ。


 sing a song、と英語でも重語表現になるあたり、歌うという行為はどこか特別な感覚がある。

 そも、重語というものが悪しき表現になるのは意味を重視する文章や黙読のみを考慮に入れる書き言葉の場合だけではないのだろうか。

 というのも、個人的感覚に過ぎないが、重語を口に出すとリズミカルな感覚がある場合が多い。

「残念無念と悔しがり」だとか、「武士の侍が」とか、コミカルで音読に向いているように思う。

 先の二つとは事例が異なるものの、「歌を歌う」や「sing a song」に関しては同じ音を繰り返すことによってリズムが生まれている。

 重語はすべて悪しきものではなく、ひょっとすると作者は音読してほしい箇所を示すために使っているかもしれないと考えるのも面白いかもしれない。

 もっとも、そのような場合はかなり限られてくるに決まっているが……。

 

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