冬の風が強く窓を叩く音で

 俺は目を覚ました


 12月30日の昼か....

 涼白を秋姉のマンションに送って

 そのまま帰って眠ってたのか

 何時間寝てたんだ俺は?


 グゥーとお腹の音が鳴り

 俺は冷蔵庫の中を確認した、

 冷蔵庫の中は缶ビールが2本に

 いつ買ったか分からない食材が入っていた


 流石に買い出しに行くか

 俺は外に出る準備をして家を出た


 正月は初詣に行って

 その後俺の部屋で年越し蕎麦でも食べるか

 アレ?年越し蕎麦って

 どのタイミングで食べるんだ?

 年越す前に食べるって

 テレビで見た気が..まっ

 腹に入れば変わらないか


 餅も買おうと商店街に行くと

 マスターの喫茶店から人影が見えた、

 女性のような人影に

 もしかして井上?っと思い

 俺は喫茶店の中に入った


 マスターが「いらっしゃい」と

 俺の顔を見て言った、

 俺も言葉を返し店内を見た、

 外から見えていた人影の正体は

 井上の職場の後輩の槙原さんだった


 その事が分かり

 俺は少しガッカリとさせていると

 カレーを食べていた槙原さんは

 俺が来た事に気が付き

「この前の...」っと

 スプーンを咥えながら言った、

 その目はまた

 狐の様な鋭い目をしていた


 この人と同じ空間に居たくなかった俺は

 また来ますと言って店を出ようとした


「何処に行くんですか?

 まさか私の顔を見て逃げてます?」

 そのまさかだよと

 言いたい気持ちがあったが、

 俺はグッと我慢して

 店に入ったマスターに悪いと考え

 コーヒーだけ注文した


 コーヒーを飲んだら直ぐ帰る

 そう頭の中で復唱させていると

 槙原さんが言った

「貴方は井上先輩の事どう思いますか」


 まただ、秋姉も涼白もこの人も

 男が親切心で女を助け家に招くと

 絶対下心があると皆そう考えるのか?

 まぁそれが普通なのかも知れないが


 マスターはコーヒーを俺の前に置き

 俺はコーヒーをひと口飲んだ、

 槙原さんの話しを無視して

 コーヒーを飲む事だけを集中させた


 無視してようと思ったが

 槙原さんは俺に言った

「井上先輩は貴方の事好きですよ」っと


 俺はその事を聞かされ

 飲んでいたコーヒーを吹き出した

「大丈夫雄一君!!」

 マスターは俺の心配をしてくれ

 俺はマスターに謝った


「井上が俺の事が好きってどう言う事だよ」

 俺は冷静そうにそう言ったが

 内心は全然違っていた、

 揶揄ってこの人が俺にそう言ったのか

 もしくはこの人の勘違いだと

 頭の中で考えながら


 槙原さんは俺の言葉を無視して

「貴方はどうなんですか」っと

 さっきと同じ事をまた言ってきた、

 俺を引っ掛けようと

 ワザとそう言ったのか?

 だとしたら凄くムカつく


「揶揄ってるなら辞めてくれ、

 俺にも井上にも迷惑だ」そう俺は

 少し怒りながら槙原さんに言うと

「揶揄って無いです!!

 本気で聞いてるんです!!」っと

 強い口調で言ってきた


 言葉の力強さに

 俺は少しビビってしまった


「貴方は知ってるんですか!!

 井上先輩の元彼の話し」

 井上の元彼?

 それがなんだって言うんだよ


 槙原さんは俺に教えてくれた

 井上は1年前

 その元彼の男と結婚していたらしい、

 最初はとても優しい男性で

 槙原さんが見ても

 心優しい男性にしか見えなかったそうだ


 だけどそれは間違っていた

 結婚してからのその人は

 豹変したかの様に人が変わり

 家の金もギャンブルに使うわ

 その事で井上が口出しすると

 井上に暴力を振るったと言う


 最後は借金を肩代わりする条件で

 離婚したらしいが、

 井上の心には大きな傷ができたそうだ


「井上先輩...何処か元気が無くなり

 やりたくなかった

 プロジェクトを押し付けられても

 何も言わず引き受けるようになり、

 先輩は何処か遠くを見ている

 そう感じるんです」


 そうだったのか....

 そんな事俺は知りもしなかった....


「優しい貴方に井上先輩は

 元彼の恐怖を重ね合わせ

 苦しんでいるんです!!

 先輩に興味無いなら

 コレ以上関わらないでください!!」


 あの日俺が

 倒れている井上を見つけ助けたから...

 ・・・・・・・・・待てよ

 もし井上が

 全てを嫌になって

 そうしようと思っていたなら


 俺は自殺した母親と

 自殺しようとした自分を

 井上に重ね合わせ

 何かに気が付いた


「マスター、お釣りいらないから!!」

「ちょっと!!何処行くんですか!!」


 持っていた千円札をその場に置き

 俺は店を出た

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