「ありがとうございました」


 時刻は深夜1時、

 タバコを買いに来ただけの客の背中を見て

 俺は時刻表の時計を見た


 12月30日...もうすぐ正月か...

 そう言えば正月は

 秋姉と涼白と初詣に行くんだったか

 少しめんどくさいな...


 それから仕事が終わるまで

 客は誰1人来る事は無く、

 清掃と品出しを終え

 朝の人と交代で俺は仕事を終えた


 時刻は4時05分

 俺は着替え終わり

 バイト先のコンビニ裏から外に出ると

 そこには俺を待っていた人物がいた


「・・・・涼白」


 何も言わず

 下を向き俺の仕事終わりを待っていた涼白


 こんな寒いのに

 何やってんだコイツ、

 雪がゆっくりと少しづつ降る冬の季節

 涼白は何を思って

 外で俺のバイト終わりを待ってたのか

 俺には見当も付かなかった


「風邪引くぞ」


 俺が優しくそう言っても

 涼白は何も言わず黙って下を見ている

 ・・・・・


 もしかすると、

 俺がまだ大学と家出した事に

 怒っているのか不安なのかも知れない、

 もうその事では怒ってないが

 ・・・いや・・・まだ少しは怒っている

 だけど


 下を向き元気の無さそうな涼白に

「もう怒って無いよ、

 だから元気出してくれ...な?」

 そう言って涼白の肩を掴んだ


 コレで元気になってくれれば良いが、

 涼白の冷たい肩に手を触れて

 涼白が俺の仕事終わりに

 かなりの時間を待っていたのだと

 気付かされた、

 こんなになるまで涼白は...


「雄一は......の」

 そう微かに聴こえる声で

 涼白はそう言った


 何を言ったのか聞き取れなかった俺は

「え?」っと言葉を返すと

 今度はハッキリと聴こえる声で

 涼白は俺の顔を見て言った


「雄一は好きな人いるの?」


 ・・・・・え?

 何だよ突然?

 井上を家に連れ込んだ事を

 秋姉から聞かされたのか?

 たく秋姉の奴、何でも喋って


 俺は涼白に教えた

 あの人は幼馴染の相手で

 寒い雪の日に

 道で倒れてるのを助けただけだと、

 だけど涼白は

 納得してない様子で

「雄一はその人の事どう思うの!!」

 っと大声で聞き返してきた


 幼馴染で高校の時

 あんな事があった俺を

 井上は何とも思って無さそうだった、

 その事が俺は少し嬉しかった、

 そんな小さな喜びだったけど

 俺は井上の事を気に掛けている自分がいた


 その時 気付いた

 ・・・・・俺は井上の事が好きなのだと


 だけど、自分を偽ってきた俺は

 涼白にそんな事を言うのが嫌だった、

 なんでこんな恥ずかしい事を

 妹の涼白に言わないといけないんだ


 だんだんムカついて来た俺は

 涼白に怒り口調で言った

「涼白には関係無いだろ」

「どうして!?」

「俺の人生に踏み込むな!!」

「!!」


 俺は涼白を置いて

 その場を去った


 最初は怒りで何も考えられなかったが

 5分ほど歩いて気が付き振り向いた


 おれ...なんて言ったんだ今?、

 涼白になんて言った?


 1人で孤独だった俺に..

 自殺しようとしていた俺を..

 涼白は救ってくれた、

 そんな涼白に

 俺はなんて言ったんだ今?


 遠くの空がだんだんと明るくなっていく

 空は暗い雲が包み

 白い綺麗な雪が落ちている


 俺は涼白にもう一度会わなければと感じ

 後ろを振り向くと、

 そこには

 涙ぐみながら黙って俺の後をついて来た

 涼白が立っていた


 涼白の涙を見て思った、

 涼白の涙を見たのは

 いつぶりなのだろうか....

 最後に見たのは

 俺が自殺しようとしたあの日だった


 俺の命を救ってくれた涼白は

 俺の為に涙を流していた...

 血も繋がっていない

 偽りの家族の俺に...


 俺はその事を思い出し、

 そうだ

 あの日から俺は

 涼白の事を本当の家族だと感じていた


 なのに俺は...涼白に...


 俺はゆっくりと涼白に近づき

「俺がツライ時は涼白が励ましてくれた

 涼白がツライ時は俺が励ました、

 この10年間、俺はお前の事を

 本当の兄妹だと感じてた、

 俺が生きているのも涼白のおかげだった」

 涼白は涙を流しながら

 俺の話を黙って聞いてくれた


「俺の足りない物は涼白が持っていて

 涼白の足りない物は俺が持ってた、

 俺達は2人で1つだったんだ」


 訳わからない謝り方をした俺だが

 涼白に俺の熱意が伝わったのか

 ウンウンと涙を流しながら頷いてくれた


 ごめんと俺は涼白に謝ると

 私も変な事言ってごめんねと涼白も謝った

 別に涼白は悪くなんて無いのに


 俺は冷たい涼白の手を握って

 昔みたいに家まで送ってあげようとした

「家まで送るよ」

「・・・ありがと雄一」

 涼白は俺の手を握り返し

 俺達は秋姉のマンションまで

 手を繋いで帰った、昔みたいに


 街灯の光が消え

 朝の光が優しく手を組む

 俺と涼白の手を照らしていた

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