12月29日の昼

 俺は井上との約束を守り

 マスターの居る喫茶店に向かった


 家を出る時

 俺は少し身だしなみを気にして

 鏡の前に立っていた、

 ただの食事なのに

 俺は何を期待しているんだ!

 なんだか鏡に映る自分が

 ニヤけ面の気持ち悪い男に見える


 アパートの階段を降りながら

 俺はマスターの居る喫茶店に向かった、

 外はまた

 小さな雪がゆっくりと降っていた


「寒い...早くマスターの所に行こう」


 足早に商店街まで辿り着き

 俺は喫茶店の扉を

 カランカランと鳴らしながら開いた


「今日も一段と寒いですね」


 そう俺は

 店の中に居るであろう

 マスターと井上に言った、

 俺は井上に会えると

 なんだか少し嬉しくなっていた


「北神君こんにちは、

 外寒かったでしょ?早く座りなよ」


 井上は優しくそう言ってくれたので

 俺は何も考えず井上の隣に座った


 隣に座って数秒後

 俺はある違和感に気がついた、

 店の中には

 食器を洗うマスターと

 コーヒーを飲んでいた井上、

 そして

 その井上の隣の椅子に

 見知らぬ顔の女性が座っていた


 俺はその事に気がつき

「どうも..」っとヨソヨソしく挨拶をした、

 誰だ?井上の知り合いか?


「あ!!自己紹介してなかったね、

 こちら同じ化粧品会社で働いている

 槙原 奈穂 (マキハラ ナオ)さん、

 同じチームで頑張ってくれてる後輩なの」


「初めまして槙原です、

 井上先輩には

 いつも助けて頂いて感謝しております」


 槙原と言う人物は

 俺の顔を睨みながらそう言った、

 狐のような怖い目に

 俺はまた「どうも..」っと

 同じ言葉を2回していた


「この人が奈穂ちゃんに言った

 この前私を助けてくれた

 命の恩人の北神雄一君」


 井上はペラペラと槙原さんに

 この間の出来事を話していた、

 あの事を会社の人に言ってたんだな

 なんだか恥ずかしいな


 俺は井上の話を聞きながら

 少し照れ臭くなっていたが、

 槙原さんはそれでも

 俺の顔をただジッと

 狐のような目で視つめていた、

 アレ?俺何かしたか?

 どうしてそんな目で俺を観るんだ?


「奈穂ちゃん聞いてる?」


「ハイ聞いてますよ、

 それにしても

 ここのコーヒー美味しいですね、

 また飲みに来ます」


 槙原さんは井上の話しを遮り

 マスターにそう言った、

 なんだよこの人感じ悪いな


 俺はマスターに

 いつものコーヒーとカレーライスを頼んだ


「北神君いつもそればっかりだね」


 ここのカレーが好きなんだと

 俺は井上に教えると、

 隣に座っていた槙原さんが

「じゃあ私もお願いします」っと言い出した


 俺は何か話題を作ろうと

「槙原さんは井上と

 いつから知り合いなの?」

 っと、分かりやすい話題作りをした


 答えてくれても

 無視されても構わなかったが

 槙原さんは

 俺が思っていた答えとは別の事を口にした


「呼び捨て..」

「え?」

「井上先輩も北神さんの事

 君呼びですよね?何故なんですか?」


 なんだ唐突に...

 それは俺と井上が同級生ってだけで...


 槙原さんの言葉に俺は戸惑っていると

 井上も少し戸惑いながら

「北神君とは同級生だったから、

 変な関係とかそんなんじゃ無いよ?」

 そう槙原さんに説明をしていた


 槙原さんは俺の顔を怖い目で睨み言う

「同級生だからって、

 そんな最近出会った男の家に連れて行かれ

 先輩は何も無かったと思ってるんですか?

 この人も男の人なんです、

 何でも信用するのは良く無いです!!」

 槙原さんは

 俺が井上を家に連れ込んだ事を

 怒っていたのか


 井上はそうだけどと口にして

 黙って下を向いてしまった、

 俺はそんな井上を見て

 少し可哀想だと思い槙原さんに言った


「無責任にそんな事してしまったのは

 悪いと思ってる、でも俺は

 井上に変な事をしようと

 そうしたんじゃなく

 心配でそうしただけなんだ、

 信じて欲しい」

「・・・・・」

 槙原さんは

 俺の言葉を疑う様な目で見ていた、

 信じて欲しいと言われ

 信じると言うのも無理な話だ


 井上は俺の顔を見て

「北神君」っと小声で言っていた、

 その時の俺は

 どんな顔をしていたのだろうか

 自分では分からなかったが

 真っ直ぐと何処かを視つめ

 嘘を言う顔はしていなかったのだとは思う


 カレーを持って来たマスターは

 俺と槙原さんのテーブルの上に

 スパイスの良い匂いのカレーを置き言った

「雄一君はそんな人じゃないよ、

 もしそんな人だったら

 僕が警察に突き出してるよ」


 マスターの言葉を信じた槙原さんは

 置かれたカレーをパクパクと食べ始めた、

 カレーがとても美味しかったのだろう

 先程までの怖い目は

 美味しいカレーに釘付けになり

 まるで子供の様な

 まんまるとした目になっていた


「美味しいですマスター!!

 絶対また食べに来ます!!」


「ありがと」


 分かりやすい人だ...

 腹が減ってたから

 俺もカレーを食べていると

「ごめんね北神君、奈穂ちゃん

 私の事を凄く心配して変な事言って」

 そう井上は

 槙原さんに聞こえないよう

 小声で俺にそう言った


 俺もその事は分かっている

 だから俺は大丈夫と井上に言った

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