第4話 慰労会にて 3:寿和ー不満(1958.) 

 何だかなー。僕は会場の大皿に置かれていた総菜を食べながら、退屈していた。幸寿はキッズスペースで社員の子供たちと玉遊びをして喜んでいる。そもそも、10歳と5歳じゃ、住む世界が違う。


「えらく、不景気な顔じゃん。」

 突然、ぽんと僕の頭に手が載せられた。見上げたら煙草を咥えた叔父さんがいる。この会社の開発の要という友幸叔父だ。幸寿のお気に入りの叔父さんだが、僕はそうでもない。

「だって、僕楽しくないもん。」

「何で。」

「僕、ここに連れてこられてるだけだよ。なんら面白いことないもん。」

「なんだ、どこか、別のとこにいきたかったのか。」

「そうじゃないけどさ。」


 叔父さんが上を向いてフ―っと煙を吐く。

「叔父さん、僕、煙草の煙嫌い。あっち行ってよ。」

叔父さんは灰皿に煙草を押し付けた。

「おう、そういうのは、ちゃんといえるのか。」

「どういう意味。」

「ここに来たくないって、ちゃんといったか。」

「それは、そんなこと、、」


 嫌な叔父さんだ。言えるわけないじゃないか。三年前に父さんが会社をつくってから、父さんも母さんも頑張っているし、生き生きとしている。幸寿も、楽しそうだ。

新しい技術だ、こんなことが出来る、って、それがすごく嬉しそう。でも、僕、それが分からないんだ。何が嬉しいの。何が面白いの。そういうの、わからないからすごくつらいんだ。

 父さんも母さんも、子育てをいいかげんにしたくないと思ってるから、きっと僕たちをここに連れてきてる。僕の為。だけど、うんざりなんだ。。。


「泣くなよ。言わなきゃわからない。」

気が付くと、僕の目から涙が溢れていた。

「誰かの気持ちを察する、とかさ、日本人の美徳とかずっと言われてるけど、無理だから。何のための口だよ。目はものを言わないよ。正しい意思表示をちゃんとしろ。」

「僕、科学とか、技術とか、全然好きじゃないんだっ。つまらないんだっ。。」

どんどん泣けてきた。

「だけど、好きじゃないといけない、ん、だ、よね?」

「なんで。」

「だって、父さんも、母さんも、幸寿も、みんな、たのじそうぅぐ。」

言葉にならなくなってきた。

「お前、別に戦争の時代に、生まれてないだろ。思想強いられてるかぁ。」

「好きになりたい。でも、無理なんだ。」

「そりゃ、お前、べつのもんが向いてるってことだ。」

「べつのもん?」

「お前、何が好きよ。暇なとき、何してる。」

「何もしてない。」

「じゃあ、何してると、嬉しい。」

「本。綺麗な絵の本見るのが嬉しい。」


叔父さんは、ククっと笑った。

「多分、お前は爺さんに似たのさ。数奇家は数奇者の家系、むしろ、芸術が好きな方が本家、多数派だ。たまたま、おいらたちがモノづくりやってるだけよ。」

叔父さんは、しゃがみ、左腕を僕の肩にのせて、僕をかかえこみ、右手でポケットから写真を僕の目の前に出して見せた。


「ほらー、見ろ、今度生産する空気調節装置だ。」

「叔父さん、今までの話は何だったの。僕、だから興味ないってば。」

「で、これ、お前にとっては普通だよな。」

「うん。なんで?」

「このデザイン、他の人は感動するとこ。この機能美が、数奇家よ。よその会社のもん、どうだ。ここまで格好よくできないぞ。」


 お前の目は、美しいものを見るためにある。美しさの基準を極めりゃいいじゃん。そんなことをいいながら、叔父さんは今度は写真機を取り出し、僕に手渡した。


「これ、やるわ。フィルムは入ってる。今度、お前の世界を見せてくれよ。」

 叔父さんはそういって、パーティに戻っていった。叔父さんのいう事は、よくわからなかったけど、渡された写真機には、不思議につまらないと感じなかった。
















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