第4話 慰労会にて 4:寿和ー兄貴(1958.)
「ぼくのだ。」
「おれのだ。」
キッズスペースで幸寿が、隣の子供と常設のおもちゃの取り合いを始めた。様子を見ていたが、両方が毛を立てた猫のようになっていたので、近くに寄る。隣の子供は、僕をみて、おもちゃから手を放した。幸寿が、すかさずそれを取り、
「へ、へーん。こういうのを、虎の威を借る狐というんだ。」
と威張る。
「幸寿、お前、いろいろ正しいけど、めちゃくちゃ、みっともない。」
「何で?」
「要は大きい強い者の力で、小さい自分が何もしないで、何とかしようってことじゃん。お前の年でそれ知ってるのはすごいけどさ。」
「おれ、ちっちゃいもーん。」
「あの子のほうがちっちゃいだろ。仲良くしなさい。」
「ぶー。」
「ぶー、じゃない。はい、先に使っていいよ。」
僕は幸寿の手からおもちゃを取り、隣の子供にそれを渡した。その子は何も言わずに走り去っていく。
「兄貴ぃ、あいつ、何も言わずに走っていった。あれはいいのか?」
幸寿、ごめん、僕分からない。大人なら、なんていうんだろう。僕だって、本当はお前の味方をしたかったけど、「常識」ってもんは、たぶんここは、より小さい他の人を優先させるんだよ。しかも、ここ母さんたちの職場なんだからさ。だけど、僕だってまだ、10歳なんだ。
僕が何も言えないでいることには、幸寿は気にせず、僕の手の、さっき叔父さんにもらった写真機をめちゃくちゃ見つめている。
「ま、いっか。兄貴ぃ、なんかいいもん持ってるー。」
う、「常識」なら、幸寿にあげたほうがいいんだろう。だけど、これは僕ももってたい。幸寿に貸したら、ばらばらに分解される。うぅ、また、苦難だよぅ。
「おう、幸寿、お前にもあるぞ。今日のノベルティの写真機。」
叔父さんが配っている。
「きゃぁぁ」
歓声を上げる幸寿。
あるんかい!突っ込みそうになったが、ぎりぎりでとどめた。僕のは試作品か。色づかいが少し違っていた。うん。こっちのほうがいい。
僕は、人生最初の写真の被写体に、とても面倒だけど、すごくかわいい弟を選んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます