第4話 慰労会にて 2:寿ー盟友(1958.)

 さりげなく、会場の壁の花に化けて、物思いにふける。数奇電気株式会社の慰労会は、会場をやんわりと区切り、1/3をキッズスペースにし、保育士さんにも参加してもらっている。人間、食事は一様にとるものであるが、大人の会話は子供には退屈だろうし、子供の甲高い声が嫌いな大人もいるからだ。

 こんな試みは昭和では絶対なかったことだし、これが正しいかどうかもわからない。ただ、未来の歴史も知ったうえで今を生きている以上、自分のベストの提案をし、行動し続けようと思う。


 それにしても、この会社は大きくなったものだ。

 現開発事業部長の友幸さんは和幸さんの弟であるが、まったく適任だった。彼は、この時代、この会社にあって最高の人だ。例えば、もし、彼が和子と同じ時代に教育を受け、育ったら、きっと埋もれていただろう。ごく小さい専門分野の一部しか扱わないなんて彼には向かない。

 友幸さんは自分は科学を習ったこともないし、専門分野なんてないというが、その感性が固定観念をつくっていないのが最高だ。いろいろな専門分野をうまくわたり、とらわれない発想で物を創る。かつてSEだった私は、いくつかの分野でピンポイントの専門知識があり、その話をすると、彼は完全に理解し、超越した技術で返してくるのだ。

 私一人が体験していた令和が、彼の力で製品に変換され、数奇電気株式会社によって昭和の世に登場する。時計が半世紀早く進み、ライバル会社は明らかに大変だろう。

 でも私は信じる。今の行動は間違っていない。数奇電気株式会社がリーディングカンパニーになることは、未来に、昭和で過去にできていた負の遺産をなるべくつくらないようにしているのだ。

 公害病は残念ながら既に生じている。しかし、数奇電気株式会社が、生産の際にすでに、有害物質の対策を考慮している上で、利益を出していると知れ渡り、他社もその点を追随してくれれば、減少するのではないだろうか。



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