第2話 リセット 1:寿ー自覚(1953.2)

 気が付くと、私は布団に寝かされていた。遠くで赤ちゃんの泣き声が聞こえる。

 幸寿だ。幸寿、幸寿。幸寿って私の会ったことない叔父じゃなかったっけ。何か意識が混濁している。


 ワタシハダレ、ココハドコ。


 落ち着け―、落ち着け。私はベテランSE、緊急時には落ち着いて状況把握をするものだ。SEなんて言っている私は和子だな。しかし、この部屋は和子の見慣れた部屋じゃない。なのにいつもの私の家とも感じる。そして、これは寿の体だ。

 なんだろう、今の私には寿と和子の記憶がある。何があった。何が起きた。記憶の最後を整理しよう。


寿:第二子を身ごもっていて突然産気づき、産婆さんが間に合わず、自宅風呂場で自力出産したところまでは憶えている。


和子:父の思い出探しをしていて、破れた写真をみつけ、修復したら祖母の寿が私だと驚いて、いろいろひっくりかえし、PCをリセットしたとき、写真が元の状態になって自分の意識が切れた。


 今は、どうも、1953年、幸寿出産直後か、その後数日経った感じっぽい。しかし、寿って幸寿出産で死んだんじゃなかったっけ。いや、今生きてるし。

 和子だったことが長い夢か。それにしてはPCやらリセットやら、思い出す今ありえない用語が生々しい。


 寿と和子は生きた時代が重なっていない。だから、和子は寿の転生、生まれ変わりでその人生を進んでいた。それが、写真を見つけた時、寿と和子が同一人物と認識され、何らかの条件が満たされ、リセットの命令で寿の続きが始まった。感じだ。

 私内時系列としては

 寿(1928~1953)25年→和子(1973~2023)50年→寿(1953~)25から続き

というところか。

 生まれ変わりを信じるのかって。私は自分の経験を信じる。私に寿と和子の両方の記憶がある以上、どっちも私だ。


 私は神とかオカルトとか信じない。だけどプログラムの上でのコマンドの動きの真っすぐさ、融通の利かなさというのは痛感している。

 いやー、納品したシステムで、尋常じゃない動きをするというのをオカルトと思いたいけど、許されないからね。神は助けてくれないし。人為的ミスは人が発見して直すしかない世界に生きてきた。

 プログラムのどこかで、かっこが1個足りなくて、意図しないところにループが戻って妙に動いているとか、変数の中身がクリアされない為、変な年月の表記になってしまっているとか。戻る動作自体はコマンドの正しい動き。変数の中身がセットされて居なかったら、前いれた値のままなのも当然の摂理。

 プログラムを作成するのはプログラマー、しかし、不具合があった際に、原因を把握し、平身低頭、障害報告をするのは、SE。ははは。

 だから、私は今の自分の状況が、誰かのプログラムの中における四次元上の一つのコマンド動作の結果に思える。コマンドはリセット。これは愚直に動作した。しかし、リセット後の寿の上に和子の記憶までくっついて来たのは意図されたか、されてないかはわからない。案外、リセットの際に、利用する変数の中身がクリアされてないってオチなんじゃないかって思う。


 時空を超えたことについても、あまり驚かなかった。実体験してしまったのなら、それは信じるに足る事実だ。やってのけるプログラムを作ったのがいつの誰かは知らんが、きっと天才。でも、その技術の一番始まりの部分には、きっと私の知ってる知識があり、それの延長線上に完成したんだって思う。

 

 さて、自分の世界に入ってられたのももう終わりか。

 ぱたぱたぱた。廊下を走る軽い音が近づいてきて、すぐ近くの障子の隣で止まった。



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