第1話 最初のターン 5:和子ー捜索(2023.4.)
どうも、食卓で父の最期を思い出しながら、寝落ちをしたらしい。気が付くと、朝になっていた。今日は休み。窓を開けて、気分を切り替える。今年は異常気象で、
四月なのにもう夏の気配だ。初夏を感じさせる晴天。留守電では、叔父が来るのは明日だといっていたか。今まで一度も会ったことのない叔父で、来客ってのは本当はうれしくないけど、今日の天気に免じて許してやろう。
というわけで、とりあえず遺影のある部屋の体裁を整えて、共通の話題ができるようなものを探す。幸寿というのは、うん、実の弟のほうだな。腹違いの弟、悠三のほうは父に金の無心をよくするという、悪い意味でよく知っている。父と血のつながりのない悠子の葬式の費用まで、父に請求したはずだ。しかし、遺産相続を祖父が死んだ時点で行っている筈だし、父はお金を払う必要があったのか。
父が死に、財産についても考慮しなければいけなくなった私は、付け焼刃の情報でいろいろ考えながら、アルバムをめくる。
初対面の叔父と金の話をするのはおかしいから、何か思い出っぽいものがいい。ばらばらとアルバムを次々にめくった。しかし、いい写真がない。父はどの写真も能面だ。そうでなければ作り笑いだ。
しかし、この作り笑いについては、どんな心境だったか、的確に表現できる気がする。親子である事をこんなに感じることはない。口角のあげ方が私の嫌な相手にするのとまったく一緒なのだ。だが、叔父にこんなピンポイントのマニアックな話題もおかしい。なんせ初対面なのだ。叔父なのに、50になって初対面ってのもなんだかな―と思う。まったく貧相な身内事情というものだ。
膨大にあったアルバムをざっと全部見た。しかし、能面と作り笑いだけだった。父はどれだけ外面で生きてきたんだ。もっと、内面がわかるものは残ってないか。
父と私が似てるのは作り笑いだけか。何かを隠したいとき、どこに隠すかな。例えばここ、段ボールの底とか。
私はアルバムの入っていた段ボールをひっくり返して叩いてみた。段ボール箱は二重底になっていて、半分に折った茶封筒が張り付いていた。
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