第1話 最初のターン 3:幸寿ー後悔(2023.4)
2023年4月、ポストに葉書が入っていた。珍しい。差出人は数奇和子(寿和娘)とある。
「突然のお便り、失礼いたします。父、数奇寿和は昨年、原発不明癌と判明し、闘病生活を送っておりましたが、4月10日未明に息を引き取りました。享年75歳でした。入院についても、葬儀についても内内にしたいとの父の希望の為、ご連絡がすべて終わった今となりましたことをお詫び申し上げます。生前に父が賜りましたご親交に心から感謝いたします。今までありがとうございました。」
数奇寿和とは俺の実の兄だ。死んだ、のか。背筋が冷たくなる。兄と最後に会ったのはいったい、いつだったか。
俺は数奇幸寿。今年古希を迎えた。父も母も若くして死んだのに、長生きしたものだ。特に母。俺が生まれる時、出血多量で死んでしまったと聞く。まだ25だったはずだ。母が死んだのは確かに俺が原因なのだろう、俺が意図していなくても。だから、父も兄も俺によそよそしかった。さらに継母なるものや、腹違いの弟というのがいて、家はどことなく暗く居心地が悪かった。継母は料理が下手で、やる気もなかったのだろう、食卓では、ふたを開けただけで皿に取り分けもされない缶詰が目立っていた。食事の場に、仕事でいつも遅い父の同席は殆どなかったため、俺は食うものを瞬速で食ったら、ほとんど猿のように木の上で過ごしていた。
どうせ半分は偽物だ。無理に「家族」することないやん。俺はそう思った。父の弟、つまり叔父が確か子供がなく、奇天烈なモノを作っていると聞く。叔父が今度家に来た時、こっそりついていってやろう。そう思い、俺は実行した。
叔父は理解があり、父を説得して俺をそのまま置いてくれ、育ててくれた。
だからこそ今の俺があるのだが、兄を不幸な家に置き去りにしたというか、出し抜いたというか、自分は次男だからいいというか、複雑な思いがずっとあり、今も消えない。血を分けた兄弟なのだから、もっと分かり合えたんじゃないか。そんなことを思っても、兄はもういない。
せめて、晩年は幸せな家族に囲まれていたと思いたい。花を手向けに行ってみようか。
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