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…そして朝食後。




「おはよーさん。聞いて来たぜー」


「おっ。はよー」


「はよー、今日は朝から早いな」



井上がスキルの力で庭に急に現れたので兵に案内させると…



俺らの居る部屋のドアを開けて挨拶しながら入って来て、藤原と柴田が意外そうにしつつも挨拶を返す。



「なんか姫が言うには今日は朝早くから神託を受けたらしくてな。なんでも珍しく昨日のやつと内容が違ってたんだと」


「「「マジで?」」」



ソファに座りながらの井上の報告に俺らの反応と言葉が被った。



「おう。お前らには朗報だぜ?どうやら新しい厄災クラスの魔獣である蛇神エキドナの退治や討伐が撤回されたんだと」


「へー。マジか」


「でもなんで急に?」



井上が笑いながら報告を続けると藤原は意外そうに呟き、柴田は疑うように聞く。



「さあな。とりあえず俺らは早かったら一週間後には元の世界に戻れるってよ」


「「マジ!?」」


「まあ条件があるみたいだが…」


「「「条件?」」」



井上の嬉しそうな朗報に柴田と藤原の反応が被り、井上が若干気まずそうに続けた呟きに俺も含めた野郎三人の反応と言葉が被る。



「よく分からんが蛇神エキドナの力が必要になるとかでな…『生贄』だの『捧げよ』だの言ってたが、エネルギー充填みたいなモンでヤバイやつとは違うらしい」



井上と巫女とやらの神託に疑問を持って聞いてくれたのか、俺らが誤解しないように前以てちゃんと説明してくれた。



「ふーん…マジでよく分からんな。なんで倒そうとした奴の力を欲しがるんだ?」


「逆に力が欲しいから倒そうとしたとか?」


「さあな。姫も理由までは分からないからな…これぞまさに『神のみぞ知る』ってやつだろ」



藤原と柴田の疑問に井上は適当な感じで返してドヤ顔でことわざを使う。



「んで?その生贄だか捧げるってのはどうやんだ?」


「分からん。姫もそこは聞いてないんだと」


「はあ?じゃあどーすんだよ」


「そこはまた明日辺りの神託に期待するしかないな。じゃ」



俺が方法を聞くが井上も知らないらしく、藤原の確認に井上は楽観的に言って姿が消える。



「うわテキトーな事だけ言って帰ったわ」


「まあなんにせよ永江を倒さなくても済んだし、あと一週間ぐらいで帰れるって分かっただけでもありがたいだろ」


「確かに…ってかやっぱ日和ったか。ダッセー神も居たもんだ」



俺が愚痴るように言うと柴田が井上をフォローするように返し、藤原は神を馬鹿にするように笑う。



「もしかしたら永江を倒せってのは『ワンチャンいけるかも…?』的なダメで元々の感じだったんじゃね?」


「…うーん…でもよく考えたらアイツも魔獣だしな…俺らが居なくなった後が心配ではある…」


「服従の首輪を着けてる限りは大丈夫だろ。誰かが外したらソイツの責任だし」


「…それもそうか」



柴田の予想に藤原が考えながら今更神の考えに賛同するような事を言うも柴田がそう返すと納得した。



…昼食後。



俺は元の世界に戻る前に料理長に挨拶しに行くために藤原にお願いしてスキルの連携で王都へと移動し、城の厨房へと向かう事に。



「おや、ウミハラ殿。お久しぶりです」


「おう、久しぶり」


「ウミハラ殿もお元気そうで!」


「まあな。風邪とかに気をつけて」



裏庭を通ると巡回中の兵達に声をかけられるので適当に返して城の中に入ると…



「おう、兄ちゃん!久しぶりだな!」


「ん。今回は結構久しぶりかも」



やっぱりすぐに料理長が手を上げながら声をかけて来るので手を上げて返す。



「今日はどうしたんだ?」


「ちょっと暇が出来たから遊びに。あと話もあるし」


「…話?」



料理長の問いに俺が用件を話すと不思議そうに聞く。



「俺らもそろそろ国に帰る時が来たみたいでね」


「ほう?そういや兄ちゃん達はまだ学生だったか?…ん?なら学業はどうした?そういえば今まで全く気にしてなかったが…」



俺が元の世界に帰還する事をボカしながら告げると料理長は今更な疑問を聞いてくる。



「まあ今は社会見学みたいなもんだ。だからこれから就職とか進学が絡んでくるワケだけど…」


「ははは!兄ちゃん達でも将来に不安を感じてるのか?国から死ぬまで…なんなら子孫代々の生活まで保障されるだけのとんでもなく途方もない功績を残してるんだから心配は要らないだろう!」



俺は適当にごまかした後に自分で言いながら気が滅入るような…気が重くなるような感じでいうと料理長に笑い飛ばされた。



「ま、だといいんだけど」


「で?いつ帰るんだ?」


「早くて一週間後ぐらい」


「そうか。で?いつ頃戻ってくる予定なんだ?」


「それが分かんないんだよな~」



料理長の問いに神や井上から聞いた期間を答えると戻る前提の確認をされたので俺は困りながら返す。



「ははは!それもそうか。兄ちゃん達ほどの人材ならそう簡単には手離さねぇわな」



ま、落ち着いたら俺も連れてってくれよ。と、料理長は楽観的に笑いながら言う。



「…できれば、ね。…それはそれと、まあそういうワケだから餞別として今の内にワインを大量に作り置きしとこうと思うんだけど」


「おお!それはありがてぇ!」



俺の提案に料理長は喜びながら賛同する。



「出来れば10年分とか…今の内に作れるだけのありったけを作って置きたいんだけど、他に広い地下室とか無い?」


「広い地下室か…地下室じゃないとダメか?」


「地下の方が温度管理がしやすいじゃん?」


「それもそうだ」



俺がそう尋ねると料理長は考えながら確認してくるので理由を話すと納得した。



「…よし。王妃に話を通してくるか」


「お、頼んだよ」



料理長の発言に俺はお願いしながらも一緒について行く。

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