鮫神と贄の乙女

ハル

序章 鮫の村

 因番国いなばのくに千和仁村ちわにむらの名の由来は、沿岸の海にあまたの鰐――すなわち鮫が生息していることだという。


 伝説によれば、彼ら彼女らを統べるのは体長が三丈――約十メートルもある、純白の鱗に覆われた大鮫だ。


 大鮫は何よりも人間の子どもを好むといわれていたため、不漁が続くと、村人たちは子どもを生贄として大鮫に捧げ、豊漁を祈った。捧げられる子どもは主に、村でもっとも貧しい家のいちばん下の子どもか、何らかの理由で村八分にされている家の子どもだった。


 異国の艦船が来航し、文明開化と呼ばれる世が訪れても、その因習は村に残っていた――。

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