第8話 西宮神社

 ジャージは西宮神社にやって来た。

 創建時期は不明だが社伝によると、和田岬の沖に出現した蛭児命の御神像を鳴尾の漁師が引き上げて自宅で祀っていたところ御神託が降り、それによってそこから西の方に御神像を遷して改めて祀ったのが当社の起源だという。


 延喜式内社の「大国主西神社」に同定する説がある。現在、境内末社の大国主西神社が式内社とされているが、後述のように西宮神社自体を本来の式内大国主西神社とする説もある。だが延喜式神名帳では菟原郡となっており、西宮神社がある武庫郡ではなく、西宮神社にせよ現在の大国主西神社にせよ、式内社とするには一致しない。ただし武庫郡と菟原郡の境界は西宮神社の約200m西側を流れる夙川でありこの河道の変遷により古代は菟原郡に所属したとする説もある。


 式内大国主西神社との関係がいずれとしても、平安時代には廣田神社の境外摂社であり「浜の南宮」または「南宮社」という名であった。廣田神社と神祇伯の白川伯王家との関係から頻繁に白川家の参詣を受けており、既に篤く信仰されていたことが記録に残っている。


 平安時代末期、廣田神社の摂社として「夷」の名が初めて文献にあらわれるようになる。そのためこの頃から戎信仰が興ったとの説がある。同時期の梁塵秘抄にも、諏訪大社、南宮大社、敢国神社と共に、廣田神社の末社が南宮とされている。この南宮が現在の西宮神社のことであり、廣田神社の境外摂社である「南宮神社」が現在でも西宮神社の境内にあるのはその名残りである。


 西宮神社の静謐な境内に、普段なじみのないジャージ姿の謎めいた人物が現れ、地雷のような心理的な爆弾を仕掛ける。同時に、医療事故によって病みつきとなった薬物中毒者が殺し屋に雇われ、西宮の街に狂気を巻き起こす。


 ジャージは偶然にもジャージ姿の人物の計画に巻き込まれ、過去の医療事故による心の闇と直面する。神社の神秘的な雰囲気が事件の舞台となり、殺し屋と薬物中毒者が狡猾に謀略を巡らせる。


 物語は車輪のように次第に動き出し、ジャージは自らの過去と対峙しながら、ジャージ姿の人物の策略を打破しようと奮闘する。サイコスリラーの中で織り交ぜられた心理戦と西宮の神秘が、最後の瞬間に至るまで読者を引き込む。

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