第17話入寮しました

この学園にはいわゆる寮が存在する。


初代校長がミッション系の学校に通っていたからとか、ヨーロッパの全寮制の学校に憧れていたからとも言われているらしいが、既に鬼籍に入った人間のためその真意は分からない。


俺は学校から徒歩で10分ほど歩いた場所にある。『鳴涼館めいりょうかん』と、書かれた学園所有の寮の目の前に来ていた。

この間他の男子生徒と俺がすれ違う事はなく、女性生徒達の視線がだんだんと興味から、不信に変化していく様をひしひしと痛感していた。



……気まずい……



俺は女子たちの冷たい視線に耐えて、事前に伝えられていた101号室に、そそくさと入った。


俺は急いでまだ仕事中であろう、従妹のシズリさんに電話をかけると数コールで電話に出た。


「もしもし? ユウ? どうしたの急に……あ、もしかして従姉おねぇちゃんの声が急に聴きたくなったとか? もしそうだったらおねぇちゃん嬉しい……」


うっっざ。人の話ぐらい聞けよ! だから見た目がよくたって、行き遅れるんだぞ……


「で、今から職員会議が始まるから、なるはやで用件を言ってほしいんだけど……」


確かに忙しいのは分かるけど。年下の従妹が電話をかけているんだから、もう少しまともな対応をしてくれてもいいと思うんだが……


「寮に着いたんだけど……ここ女子ばっかりで何かすごく居心地悪いんだけど……」


「あぁ~~ごめんユウそれ私のせいだわ。今年って寮希望の男子が多くて私の部屋来ればいいし、私とが気まずいって言うなら少し遠いけど実家もあるからと思って、ユウが寮がいいって言うの予想してなかったんだよね……だから事実上女子寮になっている寮に押し込んでおきました! 一応管理人室ってことになってる場所だから、隅にあるしエントランスからも近いし、「私の従妹が変なことすることないって」全職員に言ってあるから遠慮しないでね?」


何というか我が従妹ながら、それでいいのかと言いたくなる対応である。



「ふざ……」



思わず文句を言うとした瞬間シズリから待ったが入った。



「もし、「ふざけるな」とか「嫌だ」って弱音を吐いた瞬間私の部屋に強制連行だからね」



シズリの語気から、有無を言わない印象を受ける。今言葉にすれば冗談では済まなくなる。



「は、はい……」



俺は素直にシズリさんの言う事を、聞くしかないようだ。



「まぁそう言う事で頑張ってね。一応フォローもするし頼りになる生徒には声かけてあるから……」



一応のフォローはあるらしい。



「ごめん。学年主任から呼ばれちゃったから、私戻るね」



そう言うとシズリは電話を切った。


俺は大きなため息をついた。

学生寮に入りたいとは言ったが男子寮に入ると思っていたら、男女が入れる寮それも現在は女子しかいない寮に入ることになるとは……夢にも思わなかった。

まぁ何はともあれ3年間ここで暮らすしか俺に選択肢はない。


部屋の中にはまるでウィークリーマンションのように、家具家電が一通りそろっている。勉強机などは壁に固定されている。ワンルームなのだが部屋は十二分に広く、寝室スペースとテレビなどを見る娯楽スペースを分けても十分な広さだ。


部屋の中。トイレや風呂につながるようには、見えないドアがあるので開けてみる。

衣裳部屋と言うべき長ぼそい部屋があった。

俺は早急に問題を棚に上げて、先ずは荷を解くことにした。

暫く段ボールから荷物を出して纏めていると……ピンポンと呼び鈴が鳴った。


アパートと考えれば呼び鈴ぐらい何でもないか……



「はーい」


俺は返事をして玄関? のドアを開ける。


そこには、肩まで伸びた黒々とした濡れ羽色の艶髪の女優やモデルのようなスレンダーで、綺麗な160センチは有にありそうな高身長な女性と、脱色しているのか金に近い程薄い茶髪をツインテールに纏めた小柄な少女がそこに居た。


身長は150センチもなさそうなほど小柄で一瞬小学生かと思うも、ここは高校の寮だった事を思い出し視線を落とす。

胸元にはスイカほどの大きさの胸がこれ見よがしに、パーカーを押し上げておりパーカーの胸元のチャックは、今にも限界を迎えそうである。


何とアンバランスな……これがスイカップと言うものなのだろうか?



「こんにちわ……あなたが平泉先生の従妹のユウト君……須藤豊君で、あっているかしら?」



黒髪ショートの先輩は、遠慮……と言うか恐る恐る尋ねた。



「はい。俺が須藤豊です。先輩たちがシズ姉ぇの言ってたフォローしてくれる先輩ですか?」


「まぁ合っている。と言えば合っているわね……」



黒髪ショートの先輩の言葉の歯切れが悪い。



「よければ中に入りますか? お茶ぐらいなら出せますけど……」



黒髪ショートの先輩が、小柄な生徒の方へ視線を向けた。

俺は目線を合わせるため、かがんで少女と目線をあわせる。

瞳の色は薄く。茶色それも金色に近い程薄くまるで虎の目だ。



「何もしないし……ケーキもありますからどうですか?」


「……いる……入るからくれ……」


そう言うと黒髪ショートの先輩の陰に隠れる様にして俺の部屋に入った。




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