第16話午後の珈琲微糖
席に着くと三ヶ日は、ソーサラーの上にマグカップを置いた。
「随分と時間がかかったようね」
「待たせてごめん。」
「まぁいいわ。それで私が言いたいことわかるわよね?」
そう言ってソーサラーの上に置かれたマグカップを手に取るとコーヒーを飲んだ。
「なんで同じ学校に通う事を言わなかったとかか?」
俺の言葉に「呆れたわ。察しが悪い男ね」とでも言いたげな目で、「はぁ」とため息を付くとマグカップをソーサラーの上に置いた。
「それもあるけど……あんなに親しい女の子が他に居るなんて、私は聞いていないのだけれど」
「何か誤解があるようだから初めに行っておく……お前がこの学校に通うことも、三司姉妹が同じ学校にいることも知らなかったんだよ。何なら驚いたぐらいだ!」
俺の言葉を黙って聞いている。三ヶ日は少し不気味だったが弁明を続ける。
「……お互い学校の話はしなかったし、この件は手打ちにしないか?」
「そこもそうだったけどお互い様の部分も大きいわね……私が言いたいのはあんなに美人な姉妹が居たらもうリア充じゃないかしら? と言うところよ。もしあの二人がアナタに好意を持っているのであれば、私要らないじゃない? 貴方に協力できることないし……貴方の方がゲームだって上手いんだから……」
「そんなことはないよ。あの二人は幼馴染だけど……距離感が難しい……その点お前なら3カ月程度の関係とは言え気心が知れてる……だからありがたいんだよ」
「そうは言っても私が気にするのよ……」
「どうして?」
「私、見た目がいいから嫉妬されることが多いのよ……」
黙ってたり、口数が少なかったり、猫を被っている状態だったらもっと可愛かったよ。とは思っても口に出さない。余計に話が伸びると思ったからだ。
「それ前にも同じような話聞いたけど……」
「もちろん冗談よ。私って見てくれがいいから私がゲームそれもFPSを割とガチでやってることが知られたり、アナタと入学前から付き合いがある事を知られると結構面倒なことになると思うの……」
確かにコイツのキツイ性格を考えれば、他の女子たちから嫌われる事は、想像に難くない。少しでもスキをみせれば、そこをネチネチと攻撃してくることも、容易に想像できる。
「もう遅いかもしれないけど、ゲームの事だけは他人に言わないでほしいの」
三ヶ日の言葉から嘘の気配は感じない。本当にもしやっかみを受けた時にスキを見せたくないからだろう。
「すまん。三司姉妹には言ってしまった。確認を取らずに勝手な行動をしてすまなかった」
俺はここで頭を下げる。
「俺から他人には他言しない様に言っておくから……許してくれ」
「頭を上げて頂戴……もしかしてわざとやっているのかしら。もしそうだったらあなたの事を見る目が変わるわね。公衆の面前で同い年に見えない男の子に、頭を下げさせる男ってどう思う?」
確かに大学生にしか見えない女子が、新入生ほやほやと言った見た目の男子に頭を下げさせていると言う光景を、客観的に見てみればとんでもない毒女や悪女と言ってもいい。
確かに俺の不注意だった。
「すまん」
「はぁ。もいいわ……」
三ヶ日はそう言うと。
「お店にも悪いから何か注文しましょう」
俺はブラックコーヒーとそれに合うようなケーキを2つ注文した。
「私の分まで注文しなくてもよかったのに……」
「今回の件のお詫びだと思ってくれればいいよ。それに一人だけケーキを食べあるなんて、なんか罪悪感わくから……」
「そう。悪いわね……女の子へのそういった気使いはあの姉妹から学んだのかしら?」
「どうだろう……し……」
やべ仕事って言いかけちゃった。誤魔化さないと……
「親戚のお姉さんに仕込まれたんだよ……」
「そうだったのね……だからチグハグなのか……」
そうだったのね。までは聞こえたがそのあとの言葉が何と言っているのかは聞き取れなかった。
「そうだ。一応俺の秘密も教えておくな、俺この学校で親戚が働いてるんだよ」
「そうだったの……コネとかいうのかしら?」
「それに近いことはあるかもしれないけど……少なくとも俺は知らないよ」
「そう。だれかしら?」
「平泉静里」
「元カリスマ読モの平泉シズリ! 嘘あなたの親戚なの? 似てないわー」
失礼なこと言いやがって、張った押すぞこのアマ!
従妹は元の世界でもそうであったようにこの世界でも、かなりの人気を誇っていたようで……俺ら世代の女子からは少し縁遠いが今の時代でも通じるものがあるのだろう。
「そういいこと聞いたわ。いいわ今回の件はケーキとその情報で手打ちにしてあげる。鯛は無いのかしらね」
などと任侠映画の住人の様な事を言っている。ドスを使った手打ちをここでやろうと言うのだろうか?
俺があっけにとられた表情をしていると。「冗談よ」と言っていたがどこまでが冗談なのかわからない女だ。
俺たちは頃合いを見計らったかのように、颯爽と登場クール系のメイドさんに、コーヒーとシフォンケーキを給餌して貰うと、ケーキの甘さとコーヒーのコクに舌鼓を打った。
「少し席を外してもいいかしら?」
「大丈夫だよ」
三ヶ日の背中がトイレのドアに、隠れるまで見送ると俺も席を立つ。
伝票を持ってレジへ向かいお会計を済ませ少し離れた場所で、少し待つと三ヶ日が戻ってきた。
「自分の分は払ったのに……」
「カッコつけさせてくれそれに今日の分はお詫びだから……」
「そう……ならこれ以上言うとアナタに失礼になるわね……御馳走様でした。またゲームでもしましょうね?」
そう言って三ヶ日は、喫茶店を後にした。
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