第3話 経緯

「新入生神楽坂有紗、ようこそ我が部活へ!」


新城先輩は私が名前を記した紙、入部届を手にしてそう言った。


「ま、待ってください!私まだ部活に入るつもりはありません!第一、先輩が何の部活かわかりませんし!」


私は必死に先輩にそう伝えた。せっかく面倒な部活勧誘から逃げれたというのに……


「そうか。それはすまなかった。では私についてきてくれ」


やった!さっきの人たちと違ってちゃんと言えばわかってくれる人かも!でも一体どこに連れていく気なのかな……?


紫色の綺麗な髪を結んだ先輩のポニーテールが揺れるのを眺めながら、私は新城先輩の後ろをついて行った。校舎の一階にあった保健室から階段を登り、空中廊下を渡りついたのは二階、二年生の教室がある場所だ。教室札には『2ーB』と書かれていた。


「ここは私のクラスだ。まあ入ってみてくれ」


「……はい」


不安を胸に抱いて教室のドアを開く。いつもより重く感じる扉を開くとそこは特段変わった様子はなかった。少し変わっているところといえば、掃除の時間でよく見かける光景の、机と椅子を前へ移動させてスペースを広げているところと、円盤がスタンドにかけられて置いてあることだろう。この円盤……赤、青、白、黒で何箇所も区分けされていてその周りには1から20までの数字がランダムに振り分けられている。


「これはダーツですか?」


「ああ、そうだよ。試しに投げてみな」


先輩はそう言い、私に三本のダーツの矢を渡した。木製の床にはマスキングテープが貼られ、ここがスローラインとなっているみたい。流れるままに私にはスタートラインに立った。


左足を引き、右足重心に足を開く。右手にダーツを持ってその腕を肩と同じ高さまで上げて投げる姿勢を取り、構える。15°くらい円弧上に腕をゆっくり引き、今度は軽くスピードをつけてその軌道に乗せて放つ。


ダーツはまっすぐ飛び2m以上離れたダーツ盤に刺さった。


「シングルの7だな。トリプルの内側に入っている、良い狙いだよ」


先輩の言っていることはよくわからないけれどどうやら悪くはないみたい。私は残りの二本も投げてみる。二本目はさっきより中心に寄って、三本目はさらに中心に寄った。


「良いグルーピングだ。神楽坂、才能あると思うよ。じゃあ今度は私が投げてみるから見ておくんだ」


新城先輩はダーツ盤に刺さった三本のダーツを抜き、私が立ったスローラインに立つ。先輩が構える姿はとても綺麗で無駄がなかった。腕以外は固定して腕だけを動かし、その矢が進む先は真ん中の丸い部分だった。二本、三本、ダーツは全て真ん中の丸い部分に刺さった。三本とも同じ動き、テンポ、軌道で投げられ私はとても綺麗だと感じた。


「この真ん中の部分はbullと言ってな、三本ともbullに入ることをハットトリックって言うんだ」


「す、すごいです!どうやったらそんなに上手く投げれるんですか!?」


先輩は私の問いかけに少し照れながら腕を組んで自慢げに答える。


「ふふっ、上手いだろう!(本当は毎回狙えるわけでないことは言わないでおこう)」


先輩は何か小言で話したが、それははっきりとした言葉で私の耳に届くことはなかった。


「ここはダーツ部が使うことになる場所だ。察しの通り私はダーツを部活として行なっている、そう私こそがダーツ部の部長新城蕾しんじょうつぼみだ!」


おー。私は心の中で先輩の迫力に心を打たれた。


「最初は誰でも上手いわけじゃない、成長も急ではない。でもなダーツを好きな気持ちがあればきっと上手くなる。だって好きって気持ちに際限はないのだから」


先輩は満面の笑みでそう答えた。きっと先輩は心の底からダーツが好きなんだろう。じゃなきゃ、こんな表情は作れないもの。


「取り敢えず、もう少し投げてみるか?私も色々教えてあげるから」


「はい!」




*****




「あなたみたいな子が来てくれて嬉しいわ。歓迎するわよ」


黒髪ツインテールの美少女は斜め上を見上げそう言った。身長わずか145㎝ほどの少女はしかしながら、大人のような綺麗で整った顔で男女問わず誰もが見惚れるほどだ。


「いえいえ!私も興味ありましたから」


「そう。じゃあこれから教室に行って部長と話しましょう」


廊下を歩く二人はしばらくすると足を止め、同じく『2ーB』と書かれた教室札がある教室の前に立った。


つぼみ、新入部員は見つけられた?」


扉を開け黒髪の少女はそう言った。


「これからお世話になる水橋みずはしすみれです!よろしくおねがしま……」


青髪ショートボブの彼女、水橋すみれと名乗る少女は言葉を言い終える前に途切れた、目の前の光景により。


薄桃色の同じショートボブの女の子がダーツを投げているのを目にした。そのフォームはとても美しく感じられ、ダーツはブルに刺さった。


「やりました!新城先輩!」


「お見事。どうだ、佳奈。良い新人を見つけられただろ?」


新城先輩は肩から目を後ろにやり、扉の前にいる桜宮佳奈にそう言った。


「おや、そっちの子も新人かい?」


「そうよ。ほら……」


桜宮佳奈はぼーっとしている水橋すみれの肩をポンと叩き、意識を戻させた。


「……は、はい!水橋すみれです」


「よろしくね。私はこの部の部長新城蕾だ」


これで計四人がこの教室、2ーBに集まった。



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