第2話 出会い

入学式が終わり、教室に戻ってきた時のことである。


「私は中条渚なかじょうなぎさ、よろしくね!」


隣の席から聞こえた声は私に向けられたものだった。中条さんは私の方に体を向け笑顔で話しかけてくれた。


「私は神楽坂有紗かぐらざかありさって言います!よろしくお願いします!」


初めてのクラスメートとの会話は少し緊張したようでつい敬語が出てしまった。


「敬語じゃなくていいよ!私のことは渚って呼んでね!」


「はい……じゃなかった、うん!じゃあ私のことも有紗って呼んでほしいな」


「おっけー有紗」


早速仲良くできそうな友達ができて嬉しいです。良いスタートが切れた私の高校生活、これからもっと楽しくなりそうです。


「ではこれから連絡事項を話します。みなさん席について静かにしてください」


先生が教室に入ってきて教卓の前に立つとそう言った。


「みなさん、まずはご入学おめでとうございます。私はここ1年A組の担任となる佐藤瞳さとうひとみです」


自己紹介から始まり、それから先生は入学のしおりをくばりいろいろ話をしました。途中何度も眠くなることがあったけどなんとか耐えました。


「それでは最後に。午後からは部活をしに二、三年生が登校します。もし気になる部活があれば先輩方に声をかけてみてくださいね。ただ、運動部には気をつけなさい、少しでも隙を見せたら一瞬で部活に入れられちゃうから。以上で話は終わります」


先生の話が終わり同時に下校時間になると教室内はまた賑やかになった。だんだんとクラスメートたちが友達を作っている姿が四方あちこちで見受けられる。


「ねーね、有紗は入る部活は決めた?」


「まだかな。でも私運動苦手だから文学系でゆったりしたいかな」


「逆に私は運動系に入ってガッツリやりたい派かな!お互い良い部活見つかるといいね!」


「うん!」




※※※※※




「友達出来たし、先生怖くなさそうだし今日は良い1日だったな〜」


有紗は機嫌が良く、歩く足はとても軽く弾むように感じた。上履きを靴に履き替え、下駄箱から出てあとは家に帰るだけ。


「そう言えば部活やってるんだっけ?でももう靴履いちゃったしなー。せっかくだし校庭見に行ってみようかな。運動部に入るつもりはないけどどんな感じか気になるしね」


それが予想もしなかった私の学生生活のきっかけでした。


校庭に行くと思った通りの光景でした。私の学校はとても広いのでたくさんの運動部が部活をしていました。野球部にサッカー部、陸上部がそれぞれ校庭を分け合って活動しています。


「みんな元気だなー。私は疲れることが嫌だから家でゴロゴロしていたいな」


彼らのどこにそんな元気があるのか不思議な有紗。運動部たちの元気さにまるで自分の元気までもが吸われているような感じがする。


「おーい。そこのボールとってくれないか」


運動部の覇気を浴び疲れる有紗に、同じく校庭にいる人から声をかけられた。野球部の青年からだけど何でそんな遠くから話しかけるのかと思った。青年の指さす方向、私の足元に目を向けると……


「あーそういうことね。わかりました。行きますよー!」


そう言って足元の野球ボールを拾い上げ、青年に向かって投げた。


ボールをキャッチして、青年は少し驚いた様子を見せた。そしてどういうことか私の方へ近づいてきた。こっちまで来るなら私が投げた意味ないじゃん!無駄に疲れたじゃんと内心不満を抱く有紗はそんなことを表に出さないようにした。


「君、すごいね。さっきのボール30メートルくらい飛んだよ。何かスポーツやってたの?」


「いえ……何もやってませんが」


「まじか!才能あるからもったいないよ。じゃあさ野球部入ってみない?うちの部活、女子野球もあるし!」


面倒なことが起きてしまいました。私は家でゴロゴロしたいのに……


「えっと……」


「ちょっと待ちなさい!」


二人の会話に割って出てきたのはおそらく女子サッカー部の人でしょう。サッカーボルを脇に挟んでいる様子からすぐにわかります。もしかして私のことを助けてくれるのでしょうか。そんな期待をしていると……


「この子はサッカー部に入れたいわ!野球部なんかには渡さないんだから!」


すぐに裏切られました。これが先生が言っていたことだったんですね。運動部怖いです……


私の前で野球部とサッカー部が睨み合いを始め、どうしたらいいのかわからない有紗。もう帰りたい……


「でも今なら逃げれるかも?話が大きくなる前に家に帰ろう!」


そう思ってから足が動くまで一秒もかかりませんでした。私は全速力で走り出しました。地面が砂からコンクリートに変わるのを気付かないほど、後ろから追いかけてくる人たちに気付かないほど一心不乱に走りました。


「もうすぐで校門を出られる!」


その境界が私の安全地帯だと思い、頑張って走った。


ですが……あと目の前の角を左に曲がったら校門だというタイミングで。


「あ、危ないっ!」


角からこっちに来る人とばったり会って衝突してしまいました。私は尻もちをついて転んでしまいました。


「いってて……あっ!ごめんなさい!」


痛覚が真っ先に頭に届いて、そしてぶつかった相手への心配でいっぱいになった。


私が相手に視線を向けた時には、相手は既に腰を上げて私に手を差し伸ばしていた。


「気にしないで。私の不注意もあるから」


彼女の手を取り、私も立ち上がった。


「私は二年の新城蕾しんじょうつぼみよ」


「私は今日入学した神楽坂有紗です」


「よろしく、そして入学おめでとう神楽坂さん。ごめんなさいね、私がもっと周りに気を使えてたらあなたとぶつからなくて済んだんだけどね。見た感じ大した怪我じゃないと思うけど念の為保健室に行きましょう」 


先輩は私の手を見てそう言った。尻もちをついたときに手のひらを軽く怪我してしまったからでしょう。


私が全部悪いのに何一つ怒らない、なんて優しいのでしょう。それに新城先輩、めちゃくちゃ綺麗です。


先輩の容姿に見惚れていると私はいつの間にか保健室へ連れて来られました。


「先生は今居ないみたいね。まぁ絆創膏があれば良いから問題ないか」


私は椅子に座らされ、先輩は保健室の棚から絆創膏を取り出した。それともう一つ、紙とペンも用意して。


「流石に無断で保健室を使用するのはだめだからここに学年クラスと名前を書いて」


「わ、わかりました」


一年生でクラスは、えーと、A組だったかな。そして神楽坂有紗、と。よし!


「書き終わりました」


私が書き終わると先輩はニヤニヤした。一体どこに面白い要素があったのか不思議に思っていると、先輩の視線の先、今さっき書いた紙をよく見た。


「入部届?に、入部届!?」


思わず2度見してしまった。だがそこにはしっかりとその三文字が大きく書かれていたのです。


「せ、先輩、これはどういうことですか?」


私の質問に先輩は口角を上げ、こう言うのでした。


「新入生神楽坂有紗、ようこそ我が部活へ!」



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