第2話 記憶

☆(弥吉宗助)サイド☆


何故に彼女は俺に対して.....連絡先をくれたのだろう。

同じ境遇だとかとしても.....。

でもそれだけ信頼度があったという事だろうか。


自室で俺は電話番号の刻まれた紙の切れ端を見ながらそう思う。

それから俺は.....時計を見てからゆっくり起き上がる。

そろそろ母親が帰って来るだろう。


「.....忌々しいな」


漫画でも見てから気持ちを落ち着かせるか。

この裏切りの衝撃は本当に.....父さんが亡くなって以来だな。

思いながら俺は漫画を手に取る。


それから読み始める。

その内容は.....丁度俺みたいな境遇の子供の話だった。

引き籠りを経てから変わっていく人間模様の様なだ。


「.....」


そうして熱中して読んでいとドアがノックされた。

そして母さんの声がする。

「宗助。元気?」という感じで穏やかな声でだ。

俺は「大丈夫。ピンピンしているよ」と言葉を発しながらドアを見る。


「そう。もう少ししたらご飯出来るから待っていてね」

「有難う。母さん」

「それとお土産も買ったから。それも見てね」

「お土産?」

「お菓子よ。.....じゃあ鍋そのままだから」


それから母さんは慌てて戻って行く。

俺はその音を聞きながら溜息を吐いた。

多分だが母さんが作っているのはキムチ鍋だ。

俺の好物である。

母さんは好きな物をいっぱい作ってくれる。


「.....俺も頑張らないとな」


そんな事を呟きながら俺はスマホを動かす。

それからメッセージを打つ相手を呼び起こした。

そして(すまないけどお前と別れる)と書き込んだ。

そうしてから送信した。



山本吉朝(やまもときっちょう)。

俺の彼女の名前。

スタイルも良く美少女で有り他学校に通っている幼馴染。

だけどビッチで屑って事が分かったからスカッとした。

俺は俺なりに幸せになる。


そんな事を思いながらキムチ鍋を食った翌日。

忙しいのに書いてくれる母さんの書置きを見ながらそのまま母さん手作りのお弁当を受け取ったりして制服を整えて急いで準備をしてから。

そのまま家に鍵をかけてから表に出る。

そして歩いていると「あ」と声が。

背後を見ると.....須郷さんが居た。


「奇遇ですね」

「.....そ、そうですね」

「.....いつもこの時間に?」

「そうですね。.....俺はこの時間が好きなので」

「そうなんですね」


ニットの帽子を被っている。

制服にニットの帽子。

可愛らしいが.....。

髪の毛、アルビノを隠す為であろう。


俺はその姿を見ながら(大変だな)と思ってしまった。

それから俺は須郷さんを複雑な顔で見ていると須郷さんが「.....これは今は問題無いです。.....でもやっぱり恥ずかしいから」と可愛らしい帽子に手を添える。

そして苦笑する。


「.....やっぱり学校でもイジメられたり?」

「.....そうですね。弄られたり。.....大変です」

「.....そうなんですね」

「だけどそれでいても今のクラスは過ごしやすいです」

「.....多少なりとでもそう言ってくれる人達が居て良かったです」

「.....そうですね」


そう言いながら微笑みを浮かべる須郷さん。

(やっぱり可愛いな)と思いながら俺は須郷さんを見る。

すると須郷さんは「行きましょうか」と優しげに俺に話してくる。

そして俺の横を歩き出す須郷さん。


「.....弥吉さんも大変でしたね」

「ああ。浮気の件ですか?俺は大変じゃないですよ」

「.....私に比べたら、ですか?」

「そうですね」

「私は弥吉さんみたいに.....重くないです。.....私の場合は飽きられただけとか容姿の問題でしょうから」

「.....最低ですね。須郷さんは何も悪く無いのに」


そんな言葉を口にしながら俺は須郷さんの浮気した野郎にイラッとする。

すると須郷さんは「ありがとうございます。そう言ってくれて」と苦笑いを浮かべながら俺を見てくる。

それから暫く無言状態が続いた。

校門前でようやっと須郷さんは口を開いた。


「.....弥吉さん」

「.....何でしょう?」

「今日放課後.....空いてますか?」

「.....え?空いてますけど.....帰宅部ですし」

「じゃあ猫カフェに行きませんか?あ。猫アレルギーが無かったらですが」

「無いですよ?.....折角のお誘い。行きましょうか」


須郷さんはその言葉に一瞬だけ目を見開いてから「有難う御座います」と微笑みを浮かべて俺を見てくる。

俺は(何故いきなり誘って来たのだろうか)と考えながらだったが(まあ家に帰るだけだったから良かったかもな)と納得する。

それから俺は須郷さんを見る。


「今は浮気された気分を晴らしたいので.....お誘いに乗ってくれて有難う御座います」

「.....!」


成程そういう事か。

それだったら俺も精一杯楽しもう。

そんな事を考えながら俺は伸びをした。

それから俺は須郷さんに笑みを浮かべた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る