勇者パーティーから追放された女の子がボロボロの状態の勇者君に再会して「もう遅い」って言うだけの話(ハッピーエンド)
イルカの味噌煮込み
第1話
なんか自分のユーザーページに自作小説がないのがさみしくなったので、なろうの方で別名義(むしろ別煮込み?)で投稿していた作品のハッピーエンドバージョンを投稿してみた。なろうの方ではタイトルに「パーティーが全滅して」と言うのが入ってました。
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「ミリー、君にはパーティーを抜けてもらう」
勇者アレックスはそう幼馴染みの女戦士に通告した。
人間の住む大陸にあった魔王軍の拠点、その最後にして最大のものであり魔大陸からの侵略の橋頭堡でもあった、滅亡した海洋交易国家セレスティア王国王都を解放したその戦勝の打ち上げの最中の出来事であった。
「…………え?」
女戦士ミリーは最初その言葉が理解出来なかった。アレックスとはずっと一緒にやってきたのだ。故郷の村が魔王軍の侵攻によって滅び、お互いに家族を失ってからはその心の傷を埋めるようにいつも一緒だった。難民キャンプでは同じテントの中で過ごし、食べ物が足りなくなれば揃って採取に出かけては苦い野草や食べられる虫を見つけて顔をしかめながら食べ、その顔が可笑しくてお互いに指を指して笑いあった。12才のジョブ獲得の儀式でアレックスが勇者になった時、ミリーも当然の如く共に戦う事を選び、そして人類大陸から魔族を駆逐した今までずっと同じパーティのメンバーとして背中を預けてきたはずだった。
「……気付いているはずだミリー。君のジョブは下級職の「戦士」、サブジョブも「盾使い」でしかない。僕達はこれから魔王軍の本拠である魔大陸に向かう。君ではステータスもスキルも足りない……足手まといだ」
「っ! そんな! それに今から新しいタンクを探すつもりなの!? そんな都合良くこのレベルについていけるタンクがすぐに見つかるとは……」
分かっていた。自分に才能がない事は。才能があればクラスチェンジ出来ると言われるレベル50を越えてもなお下級職のままだった時点で。それでも彼女は勇者と共に有ろうと努力し続け、技術を磨いて激戦をくぐり抜けてきた。それは勇者が一番良く知っているはずだった。
「代わりのメンバーはもう見つけてある」
だが彼の返答は非情なものだった。
顔を横に向けたアレックスの視線の先をたどると、ニヤニヤと笑う中年の大柄な戦士が歩み寄って来た。
「よう、お嬢ちゃん。俺は「不動」のランバート。「守護騎士」で「聖騎士」だ」
そして絶望した。二つ名持ちでメインもサブもタンク系上級職。短い自己紹介でも自分とは比べものにならないと理解させられる情報量だった。
助けを求めるようにパーティメンバーの姿を見るが、そこには新メンバーと同じようにニヤニヤと笑う斥候のジョンと魔法使いのレオンハルト、それに普段からほとんど無表情なのに僅かに口元に笑みを浮かべる神官のフェリックスの姿があった。
『全員知っていたんだ……』
仲間だと思っていた。苦しい時も、楽しい時も共に過ごして来た信頼できる仲間だと。なのにパーティーから自分が追放されると言うのに、こんなニヤニヤと嫌みに笑うほど嫌われていたなんて思ってもいなかった。
「なあミリー、君は女の子でしかも小柄な方だ。もともとタンクには向いていないんだ。実際、パワータイプの敵の攻撃を受けて吹っ飛ばされたのも一度や二度じゃない」
アレックスの声はあくまでも優しく、諭すような口調だった。
分かっている。だがそれでもミリーはタンクに拘っていた。家族の仇を討つ為に、あるいは誰かを助ける為に、何時だって無茶をするアレックスを守りたかった。たった1人残った同じ村の生き残り。失った家族の代わりになってくれた人。そして……本当の家族になって欲しいと淡い思いを抱いていた人。どんなに恐ろしい魔物と戦っても彼と一緒なら怖くなかった。死ぬ事よりも残される事が……彼と一緒に死ねない事の方が怖かった。
でもそれはミリーだけの思いだった。アレックスにとってはミリーはただの幼馴染み……
「なにより! 俺はもう大切なミリーが俺の代わりに攻撃を受けて怪我をするのを見たくない!!!!」
じゃなかったようだ。
いきなりの言葉にポカーンとするミリーに、アレックスはキリッと表情を引き締め、腰のポーチから小さな箱を取り出してミリーに中を見せるようにそれを開ける。
中には簡素ながらも美しい細工がされたミスリルの指輪。
「俺は必ず魔王を倒して帰ってくる。だから待っていて欲しい。そして……この戦いが終わったら俺と結婚して下さい!」
「それ決戦前に勇者が言っちゃいけないセリフだよっ!?」
思わず突っ込むミリーに爆笑する仲間達&新メンバーのおっさん。
遅まきながらも彼らのニヤニヤ笑いの理由が自分が思っていたのと全く別のものだと気付いたミリーなのであった……
結局ミリーのパーティー脱退はなんやかんやで有耶無耶になって保留となった。魔大陸への侵攻への準備期間と言う事で一時的だが平穏な時を過ごす勇者パーティー。当然思いが通じ合い恋人としてイチャイチャする勇者アレックスとミリー。爆発すればいいゲフンゲフン避けられない決戦の前に少しでも日常を過ごそうとする恋人達。しかし時は流れ半年後、魔大陸への侵攻の為の船が揃い、二人を引き離す運命が動き出した……
「「「ミリー! お前を勇者パーティーから追放する!!!」」」(天丼)
「「なんでぇっ!?」」
唐突にパーティーメンバーから追放を告げられて狼狽するミリー&アレックス。アレックス君はなんやかんやでラブラブになった為、今更ミリーと離れ難くなった模様。それでいいのか勇者。
「なんで……なんで今になってそんなこと言うの! もう魔大陸に向かう船も揃った! これから皆で最後の戦いへ行くって時に……!」
「いやそう言われてもなぁ……」
ミリーの言葉に頬を指で掻きながら困ったような顔をするランバート。チラリと視線を向けた先、斥候のジョンが苦笑しながら決定的な言葉を告げる。
「おいミリー、こんな事を男の俺から言いたくなかったんだけどよぉ……最近、月のもの来たか?」
「ふぇ?」
一瞬何を言われたか分からず固まるミリー。だが理解した瞬間顔が茹で上がり……あれ? そう言えば最後に生理が来たのって何時だっけ?と言う思考が脳裏に走る。
「……落ち着いて聞いて下さいミリー、後ついでのオマケにアレックス。私が先程たまたま生命感知の魔法を使った時にですね……その、ミリーのお腹から生命反応を感知してですね……」
「「は?」」
魔法使いのレオンハルトの言葉に呆けた声を上げるミリー&アレックス。うん、思いが通じ合った若い子達を半年も自由にさせといたら、ねぇ?
「「…………ええええええーっ!!!!」」
ようやく仲間の話の内容に思い至り、絶叫を上げる二人。仲間達も苦笑から露骨なニヤニヤ笑いへと代わり、たまたま周りにいた冒険者達も口々に囃し立てる。
どんどんぱふぱふ~
何故かパーティーメンバーの無表情神官ことフェリックスが太鼓と口に咥えるちっちゃなラッパで鳴り物を担当している。お前クールキャラじゃなかったんかい。
結局ミリーは人類大陸に残る事になった……と言うか妊婦さん連れて行けるわけないよね!
何故かアレックスが庭付き一戸建ての物件を聖王都に所有していたのでそこに住んで彼らの帰りを待つ事になったのだ。ところでアレックス君? なんでそんな露骨に家族向けの物件所有していたんですかねぇ? これにはパーティーメンバーもニヤニヤ笑いが止まりませんよ?
魔大陸へと旅立つ日、別れる恋人を勇者は抱きしめ「愛してる……必ず君の下へ戻って来る」と誓う。公衆の面前での愛情表現に顔を赤らめるミリーだが……周囲のニヤニヤにいまいちノリきれない。あとフェリックスがちっちゃいラッパをぱふぱふして囃し立ててるのがめっちゃ気になる。それ気に入ったのね君……
そして勇者達を乗せた船団は旅立った。ミリーを残し、人類の存亡をかけた最後の戦いへと……
そして月日は流れた。
本拠地に攻め込まれた魔王は防衛に回す為に人類大陸へ展開していた残った戦力を魔大陸へと引き上げた。その為、魔王との戦いは終わっていないものの人類大陸では平和な日々が訪れていた。勇者アレックスと人類連合軍の活躍により、魔大陸の7割が制圧。魔王城の位置も判明したと言う噂もあり決戦の時は近いと言われていた。
そんな中でミリーはあの家でアレックスを待っていた。
別れて半年後に生まれた息子のアレンはもう4才になっており、すっかりやんちゃに育ち今も庭を駆け回っている。
「もう5年かぁ……」
かつての勇者パーティーの勇ましい女戦士の面影はなく、すっかり母親の顔になったミリー。戦線を支える為にアレックスは帰るに帰れず、アレンは父親の顔を見ることなくここまで大きくなってしまった。
「……会いたいなぁ……」
戦地からは数ヶ月に一度のペースで手紙が送られてくる為に無事であるのは分かるが、人間に化ける系統の魔族のスパイを警戒して具体的な戦況などは書かれていない為、何時になったら戦争が終わるのかはサッパリだ。
「いつまで待たせるのよ……」
考え事をしながらも手馴れた手つきで夕食の下拵えを終えるともう夕方。後一時間もすれば真っ暗になってしまうだろう。息子を家に入れるべくミリーは庭に出て呼び掛ける。
ふと、風が動いた。かつての戦士の感覚は家の門の前に突然複数の人の気配が現れた事を教える。現役時代には何度も感じた転移魔法によって人が出現した時の感覚だ。
目をやった門の所に立っていたのはボロボロの男達だった。全員が身に付けた服はボロ切れとなり、あちこちにかつて鎧だったと思われる金属のパーツがくっついている。さらに大量の血や土埃が付着しておりゾンビと見間違えかねない有り様である。本人達も傷だらけで傷も古傷からまだ血の滲む新しいものまで各種取り揃えているようだ。
一番手前にいた男が疲れきった表情を浮かべた顔を上げ、不思議そうに辺りを見回し……
「…………ミリー?」
「……!!!!」
目が合った。忘れもしないその面差し。懐かしい声。
ミリーは泣き笑いを浮かべてアレックスの元に駆け寄り、飛びかかるように抱き付く。
「もうっ、おっそーい!」
おしまい
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タイトルに偽りなし!
この作品を読んで「いい話だなー」と満足した方は決してなろうバージョンを読んではいけません。特に後書き。うっかり読めば作者の心の闇を知る事になるでしょう。ましてや感想欄の作者返信を読めば後悔する事請け合いです……いいか!読むなよ!絶対読むなよ!(露骨になろう版へと誘導するフリ)
勇者パーティーから追放された女の子がボロボロの状態の勇者君に再会して「もう遅い」って言うだけの話(ハッピーエンド) イルカの味噌煮込み @gogon1976
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