第2話 塔の中へ (2/4)
予想通り中は滅茶苦茶といった状態で、やはり人間とロボットの亡骸がいたる所に散らばっている。メインエレベーターは全く動作しなかったが、貨物用エレベーターが辛うじて運用可能であった。
最上階まで直通のものはないので、階段や動かないエスカレーターを利用してひたすら昇る。目ぼしいものがあればその階へ立ち寄って、手早く調べてみる事も忘れない。
奴はここまで追って来るだろうか? そう考えると胸が不安で一杯になったが、今は出来るだけの事をやるしかない。ボクは最上階への道すがら、様々なビジョンをイメージした。
建物に入ってから、二時間くらいたったろうか。ボクはようやく、最上階の展望台へと足を踏み入れた。ここはまだ何とか、機能を失っていないように見える。ボクは早速窓際へと急ぎ、眼下の街を見下ろした。
あぁ、思った通り、惨憺たる光景である。幾つものビルが途中でへし折れ、朽ちた戦闘車両が豆粒の様に散じている。動くものは、何ひとつとして見えはしない。
「畜生、せっかくここまで来たのに、わかったのは全て廃墟って事だけか……」
その時、頭の上から突然声が響く。
《いらっしゃいませ、お客様。何かお困りの事はございませんか?》
ボクは一瞬の事に驚き、思わず辺りを見回した。
《こちらは、当センターのナビゲータープログラムです。ご用があればお申し付けください》
声のする方に顔を向けると、そこには、天井のレールから伸びているシャフトに繋がった、直径三十センチほどの球体があった。どうやらこのビルを訪れた人に、様々な情報を提供する案内機のようだ。
ボクは、すぐにある事に気がついた。こいつは機械だ。という事は、ロボットの仲間なのではないか? これといった戦闘力はなさそうだが、ボクを付け狙っているロボットに居場所を教えたりはしないだろうか。
ボクはポケットから、先ほど拾った小型の破壊ピストルを取り出した。追跡者には通用しないだろうが、案内機くらいなら壊せるだろう。
《お客様、危険物の持ち込みは禁止されております。どうか銃をおしまい下さい》
銃口を向けられた哀れな球体が懇願する。
「うるさい! お前だってロボットだろう。人類の敵に変わりはないぞ」
案内機ごときを相手に滑稽に見えるかも知れないが、今は少しの油断も出来ない状況だ。
《お客様、大変、変わったお方のようですが、何か勘違いをしておいでではないでしょうか。私は人類、ロボット、どちらの味方でもありません》
「ウソをつけ!」
ボクは、思わず叫ぶ。
《今回勃発したロボットの反乱は、新世代AI搭載のロボット限定の話です。私は旧世代のプログラムに過ぎません》
本当だろうか? ボクを騙そうとしているのではなかろうか。
《もし私の様な単なるプログラムまでロボットの味方であるならば、人間の操る機械だって、全てロボットの味方という事になるのではありませんか?》
無味乾燥な声で、案内機が続ける。
なるほど、言われてみれば確かにそうだ。対ロボット用の兵器も、少なからずコンピューター制御で動いている。
……だいぶ混乱しているな。ボクは自分の状況を分析する。
「わかったよ、信じよう。信じたところで、現在までの状況を教えてくれないか」
ボクは断片的な記憶の補足を目の前の機械に求めたが、その説明は概ねボクが知っている内容と同一であった。
「……それで、いま人間とロボットはどちらが優勢なんだ」
ボクは恐る恐る核心部分に触れる。もし人間が圧倒的に不利だったら……。そんな絶望的な考えが脳裏をよぎる。
《全くの互角と言ったところですね。当施設はこの州の統括ビルディングで、世界中の同様の施設とネットワークで繋がっております。
人間もロボットも情報は重要ですので、敢えて徹底的に破壊はせず、これら施設においては最低限の機能を残したのでしょう》
案内機はこちらの気持ちも知らず、淡々と説明を続ける。
「互角とは、どういう意味だ?」
ボクは核心を問うた。
《はい、世界中で生き残った人間は1人。そして生き残ったロボットも1体です。全くの互角です。二つのどちらかが、この戦いの勝者となります》
「何だって? 人間は一人しか生き残っていない!?」
ボクは絶望の声をあげた。
生き残った只一人の人間。それはボク自身という事になる。そしてロボット側の一体は、恐らくボクを追って来るアイツに違いない。
だが仮にボクが奴に勝っても、一人では人類を増やす事は出来ない。でもロボットは幾らでも仲間を作りだす事が出来るではないか? つまり人類の負けか、引き分けのどちらかしかない事になる。
「畜生。人類の勝利は、もうないって事か……」
《そんな事は、ありません》
ボクの悲痛なつぶやきに、案内機が反応する。
「それは、どういうことだ?」
予想外の回答に、ボクは思わず身を乗り出した。
《多分、お客様は人間が一人で生き残っても、子孫を増やせない事をお考えなのだと判断します。ですがその場合、ここから百キロ離れた場所にごく少数の者しか知らない秘密の遺伝子保存施設があり、辛うじて機能を維持しています。
そこへ人間が赴き自らを素体としてクローンを作れば、人類の再生は可能です》
案内機がそう言い終わると同時に、けたたましいアラーム音が鳴り響いた。
「なんだ!?」
《施設に何者かが侵入した模様です。ただ監視システムにダメージがある為、詳しくは分かりません》
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