第193話 魔法がダメなら物理よね?

 ブレードリヒの指示に釣られるように魔道士は詠唱を始めた時、一陣の風が吹いた。


「「オーム彼の敵を……」」


 その先を誰一人続けることはできなかった。悲鳴を上げる間もなく魔道士が崩れ落ちていく。倒れた先に広がる黒いにじみが彼らの最期を示していた。


「馬鹿なっ!? 何も攻撃はなかったはずだ」


 ブレードリヒの悲鳴があがり、ミランダが戦慄している。


「魔法が発動する瞬間を狙って……? 『隠密ステルス』の魔法で見えない私たちを、魔法の始点で場所を特定してくるなんてまるで――」


 カウンターだ。

 魔法の術式を組んだ時点で攻撃してくる――これでは魔法は発動できない。こんな攻撃をしてくる魔物はミランダも経験がなかったようだ。


 誰もが手詰まりを感じる中、突然ブレードリヒが演説を始める。


「諸君! 彼らは我が身を犠牲にして悪逆なる魔物の狙いを見破ることをなさしめた――」

 痛恨の思い、とでも言いたげな面持ちで芝居がかったセリフは続く。


「これは事故であり、そして光明なのだ。敵の狙いがわかった以上、対処はできる。

 そうであろう? 彼らの犠牲を無駄にするな。これより先、私は口をつぐむとする。このを引き起こした一人としてな」


 甲高い声は殊更ことさらに事故を強調する。

 無駄にするな、と言いつつも失敗しても自分に責任はない、と言いたいのか?


「さぁ、指揮官殿。彼らに指令を――」


 と俺らを顎で指すじゃない?! コイツ散々口出ししといて、まずいとなったら手のひら返しやがった。


「おい、おっさんよ。テメェが余計な事を言わなけりゃ、コイツら死なずに済んだんじゃねぇのか?」


「事故の責任の一端はある――と言ったが?」


「それを言い逃れって言うんだが?」


 睨み合っていると背後から声が上がる。


「盾兵っ、踏ん張れ」


 魔狼が突っ込んで来てドカンッと衝突すると盾で作った壁が揺らいだ。

 強度を確かめているようだ。

 行ける、と思われた瞬間に一斉に襲いかかってくるだろう。


 もうアホに構っている暇なんてない。魔法は使えないし、凌いでばかりじゃいつか突破される。

 魔法は使えない――なら物理しかないよね?

 俺は魔道士をかきわけて盾兵の後ろまで進み出ると、魔狼との距離を確かめた。


「グォッ」


 1頭が低く唸ると、それを合図に3頭がもの凄い勢いで突っ込んでくる。


 くくく……待っていたよ。この瞬間を。


「メテオストライク(極小)!」


 中空に現れた扉が開くと20tの鉄塊が落下してきた。

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