第191話 暗夜行路は先行き不安

 ブレードリヒが決死隊に自らの出世欲のために軍監に割り込んで来た。必然、決死隊の指揮は乱れることになる。


「これより北東200メートルは魔物はいません。さ、早く」

 輜重隊しちょうたいから選出された探索者シーカーが、魔物を避けて誘導してくれている。


 深夜に近い暗闇の中、互いに逸れないよう電車ごっこのロープよろしく、そこから伸びる縄を手に20名の決死隊は、そろそろと闇の中を進んでいた。


 もちろん真っ暗な状況でも魔物は襲ってくるし、照明などつけようものならそれを目標に襲ってくるから、夜行軍は昼間よりも危険だ。


 にも関わらず、真夜中の進軍をしているのは照明さえつけなければ昼よりはマシだからだ。

 多くの魔物は迷宮都市タレントゥムスの城壁に煌々こうこうかれる篝火かがりびに、注意を持っていかれ、草木にこそこそと隠れながら進む一団には目もくれなかった。

 

「魔物は魔物を喰らうから、より強い相手を注意してるみたいだしね。それでもキレイに魔物を避けていくのはスゴイよね」

 レオが小声で話しかけてくる。


 あちこちで魔物が魔物に襲われ、あるいは襲って断末魔の声やら必死に抵抗する悲鳴が絶え間なく上がり、全く生きた心地がしないんだが、これまで魔物には遭遇していない。


「本当に気配すらないよな」


 俺はというと全身鎧フルプレートアーマーのフェイスガードを下ろせば、真っ暗でも暗視カメラの映像のように、夕暮れくらいには見える。

 そしてその俺とバイパスの繋がってるレオとミランダも、『暗視』の能力を共有しているから、わざわざロープに連らなくても問題ない。


「そこっ、無駄口を叩くな。それぞれがブレードリヒ隊の命運を握っていると心得よ」

 小声なのに甲高い声が伝わってくる。


 ちなみに魔道士が『隠密ステルス』と『消音サイレント』の魔法をかけてくれているから、ブレードリヒの言う事は全く当たらない。


「そもそも回生隊じゃないのさ。勝手に名前も変えて、何さ、威張ってさ」

 と闇夜を幸いとレオが睨みつけている。


 魔物が溢れる迷宮ダンジョンへの街道は使えないから、その両脇に広がる樹海を抜けるルートを進むこと2時間。


 ミランダが手を開いて全体の停止をかけた。


「何があった?」

 領軍のベルトラン隊長が尋ねて来るが「しっ」と言ったきり、耳を澄ませている。


「ええい、はっきり申せっ。女と言えど打擲ちょうちゃくも辞さぬぞ」


 ブレードリヒがしゃしゃり出てきて鞭をしならせる。


「魔狼よ……最悪の魔物が現れた」


 ミランダが眉間に深くしわを寄せた。

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