第189話 無茶振りは断れない状況なんだと思い知らされる

 エリック少将に呼び出されたショーカンは迷宮ダンジョンの封鎖を依頼される。


「ふあぁぁぁ?」


 ね? 馬鹿なの? あんた少将で師団長なんでしょ?

 そんな事できるなら迷宮暴走スタンピードが始まる前にやってるでしょ?


「圧力が減って来ているんだ」

 俺の顔色を見て察したのか怜悧な笑いを浮かべている。


「これまで魔物が溢れくる数と種類、分布を調べていたが面白い事がわかってね」

 と地図に目を落とした。


迷宮暴走スタンピードが始まった1時間は低層から深層部までの魔物が混在していた、これは予想通りだ。

 だが3時間を経過した時点で明らかに10層から下の魔物になってきて数が減って来ている」


 こちらの『だから何??』的な顔にお構いなしにエリック少将の説明は続く。


「つまりだ、数の圧力が減って来ている。当然、魔物の分布に偏りが生まれる」


 魔物が絨毯のように押し寄せて来ていた時と違って、まばらな所ができていると?


「準備の間に魔宮ダンジョンの封鎖を考えなかった訳じゃないさ。ただそれができる時間と手段を思いつかなかった」


 だが……と俺をじっと見る。


「まさか3日で、幅3メートルに深さ5メートルの竪堀りを2キロも掘れる化け物じみた人間がいる、とは思わなくてね」


 あれ? それをしろって言ってたのは貴方でしょ?

 ポカンとした顔をしていると、クククッと肩を揺する。


「あり得ないんだよ、そんな事をできる人間は王都の魔道士にもいない。どこまでできるのかテストさせてもらったんだよ」


 ありゃりゃぁ……やらかしたってワケですか? そしてまた厄介な依頼が来た、と?


「あの竪堀りで消えた土塊はおおよそ3万t。それが迷宮ダンジョンの入り口に出現したらどう?」


 どう? ってどうなの?


迷宮ダンジョンの入り口を塞いでいた鋼鉄は3t。それで迷宮暴走スタンピードを3日は食い止めていた。

 土塊と鋼鉄の強度の差を差し引いても10倍は行ける――もちろん単純にはいかぬだろうが、分断出来れば各個撃破できる」


 と迷宮都市タレントゥムスの迷宮ダンジョン反対側に置かれている緑の駒を、トンッと都市へ近づける。


「5日もすれば王都からの支援が間に合う。だがこのままでは2日と持たないだろう。何せ人間は休まなければ死ぬからな」


“必要”なのはわかるが“出来る”とは別問題なんだが?


「手段はある。領軍と高ランクの冒険者を護衛につけて、魔物の薄いこのルートを切り開く」


 と赤いマーカーでルートを示していく。


「やってもらうよ」


 エリック少将が俺を見据えた。

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