第187話 ショーカンはまた召喚される

 レオの身を案じるあまり、事情も聞かず説教してしまうショーカン。レオは歯痒さを隠そうともせず、走り去ってしまう。


 ――――その頃、城壁の上では。

 ※第三者目線です。


 曇り空のせいで西の空が茜色あかねいろに染まる時刻に関わらず、城壁の上の監視塔ではそこへ報告へ駆け込んでくる斥候たちや伝令兵でごった返していた。


 神聖軍から派遣されたエリック少将と領主のアルベール男爵は、眼下で繰り広げられる冒険者たちと迷宮暴走スタンピードで溢れ出してきた魔物との戦いを見守っている。


 いつもなら1日の仕事を終え、帰宅する路上で迎える午後6時ごろ。

 昼前から6時間以上も押し寄せ続ける魔物たちの攻撃と、それを跳ね返そうとする冒険者たちの双方の放つ殺気に晒され続けて、疲労の色が漂い始めている。


「エリック少将閣下、ショーカンを連れて来ました」


 そんな疲労とは関係なしにキビキビとした動きでカイゼル髭の騎士が近づいてくる。


「ブレードリヒ・フォン・マリウス少尉であります。このブレードリヒが閣下がお探しの男を連れて参りましたぞ!」

 無駄に出世欲の強い彼は己の手柄を誇張して、なんとか戦後の論功に加えて欲しいようだ。


 めんどくさい奴が来たな、と半眼になるが、その後ろにいる全身鎧フルプレートの大男を見て、相好を崩した。


「やあ、ご苦労様。ショーカン君だったね。こちらに来てもらえるだろうか? あ、ブレードリヒ君は下がってヨシ」


「あえ? しかしながら閣下、この男は少々扱いが――」


 論功の匂いを嗅ぎつけた猟犬のような振る舞いに、エリック少将も苦笑いしてしまう。


「聞こえなかったか?」


 真顔で問い直されると、命令が聞けないのか? と言われているようで引っ込むしかなかった。


「はっ」


 やや乱暴に靴音を立てながら消えていくのを確認するとショーカンに向き直る。


「さて、ショーカン君。君にぜひやって欲しい仕事があるんだ」


 と機嫌を良くして笑顔で顔を向けるが、なぜかしょんぼりしている。


「……何があったかは知らないが、これから君が英雄ヒーローと呼ばれるようになる仕事を任せたいんだが、聞く気はないかな?」


「はぁ、光栄の至りであります」


 言葉とは裏腹に足元を見ているばかりだ。

 しばらくその理由を推察していたが、彼に関する報告書を思い出して、ポンッとてのひらを叩いた。


「レオ君にも関係ある話なんだが……」


「どういう事ですかね?」


 ショーカンは顔を上げると一気に警戒心を露わにした。

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