第186話 良かれと思って

 突き立てられた細い剣に魔法が顕現し、サラマンダーの体が砕け散った。


「「よぉし!」」

「浮かれんな、次が来るぞ」


 上がる歓声と、次を警戒する声が交錯し現場は騒然となる。


「わかってらっ、索敵を放て」


「来るぞ、2時の方向だ」


「マーカーだ、魔力を武器に通してマーカーにするんだ。突き刺して目印を作れば、魔法を一点に集中できる」

 

 さすがに高ランカーの集まりだけあって、いつまでもやられっぱなしという事はなく、しっかり対処法を見つけている。


「へぇ、足りなければ力を集中させるか……高ランカーってのはすげぇな」


 うんうんと感心しているとカツンッと小石が兜に当たった。

 ん……? とそちらを見るとレオが手招きしている。


「ばっか、なんでこんな所に来たんだ」

 慌てて小走りで駆け寄る。


「「あのね」黙ってろ、早く避難するぞ」


「「わかってるけどさ」良いから早く」


 周囲への警戒心MAXであちこちに視線をばら撒きながら、肩を抱えるようにして輜重隊しちょうたいの拠点まで戻って来た。


 そこでやっとレオを解放して手頃な樽に座らせると、怒ったように腰に手を当てた。

 人差し指をピンと立てるとお説教タイムだ。


「なぁレオ。俺に用事があったかも知れない。が、他の者にも頼めたはずだ。あそこは高ランカーでさえ焼き殺された」


 危ないってわかってたはずだよな? とフェイスガードを押し上げて、だよね? と問い直す。


「そりゃわかってて怖かったけどさ……「なら知恵を働かせろって。命より大事な用事はないはずだ」」


 めっ! って感じで顔をしかめてみせる。

 だがシコリを残したくないから、思い切りむぅと眉をしかめているレオに釈明を求めてみた。


「で、なんの用なんだ?」

「エリック少将が呼んでるって。あの混乱した中で呼び出せるのは魔法絆バイパスが繋がってる私しかいなかったし――」


 ショーカンが無茶しそうだったし――と消えいるような声で呟いた。


 ありゃぁ……確かにBランカーが焼け死ぬようなところに、頼んでも行ってくれる奴はいねぇわ。

 おまけにあの混乱した状況で、探し出すなんてレオ以外は無理だ。

 その上、レオは心配して来てくれたってぇのに俺は。

 ただの感情で叱ってしまったワケだ。

 

「……すまん。悪かった」


「そうだよ。心配して損したよ。行ってみれば見物してるみたいに余裕だったし」


 バカ、と言い捨ててレオが走り去ってしまった。


 ああ……自分のアホさに泣けそう。

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