第184話 サラマンダー現る

 城壁の上からエリック少将が動き回る全身鎧フルプレートに目をつけた。


 ――――第二防衛線にて。※ショーカン目線です。


「ぼちぼち来るぞっ、火力組は準備できたか?!」

 マーベルの胴間声どうまごえに応えて、茶色いローブの魔道士が軽く魔導杖ワンドを上げる。

 白いローブは神聖軍のシンボルカラーらしく、冒険者の魔道士は区別のために茶色で統一されていた。


 ジリジリしながら城壁からの合図を待っていると、ファァァ――――ンッと城壁からサイレンが鳴る。

『頭を抱えて伏せろ』の合図だ。


 と、同時に魔道士から、さっきまで居た第一防衛線へまばゆい光が放たれると、オレンジ色の火柱が立ち上がりドォォォンッと揺れた。

 少し遅れて仕込まれた火薬が爆発したか、次々と爆音が響き黒い煙が立ち上がり、空からバラバラ何かが降って来た。


 それが魔物の肉塊なのか、吹き飛ばされた土砂なのかはわからない。ただひどく生臭い匂いだ。

 

 顔を上げると衝撃であれだけ硬く固められた塹壕ざんごうの縁が削れて落ちている。


「ぷぁ……すっげ! すんげぇもんだな、魔法って」


 兜のフェイスガードを開けるとあたりを見回すが、巻き上がった土煙りで何にも見えない。


 そこへマーベルの胴間声どうまごえが降って来た。

 

「惚けてんじゃねぇ! 生き残りが押し寄せて来る。魔道士は退がれっ、近接戦になるぞ」


 見ると2、30メートル先の第一防衛線だった塹壕の中から、さっきの爆破を生き残った奴らが顔を出している。


「サ、サラマンダーだ」


 ゴクリと唾を飲み込む隣の冒険者。確か彼はBランカーだったはずだ。


「サラマンダー?」

 

「脅威度100の溶岩の中に生息すると言われている魔物さ。20層にいると言われているのに……」


 やだ、なにそれ? 敵うはずないじゃない? 息をのみ土煙りの向こうの気配を探っていると、のっそりとデカい山椒魚が現れた。


 溶岩のようにゴツゴツとした表皮に覆われて、ひしゃげた円柱を横倒しにしたような体に、不釣り合いな巨大な頭とトカゲのような短い手足がついている。

 戦車より大きいくらいの体をノソリノソリと蠢かせて、塹壕から這い出て来た。

 目はどこについているかわからない。ただ、こちらがどこにいるかは分かるようだ。


 お寺にある梵鐘かねを横倒しにしたような頭をこちらに向けると、大きな口を開いた。


「伏せろっ」


 誰が叫んだかわからない。

 だが次の瞬間、真っ赤な炎がそこから吹き出した。


「ギャァァァァ――ッ」


 2、3人がそれに巻き込まれ消し炭となった。

 

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